冬の一角獣

真城六月ブログ

合図

 

 

 

苦し紛れのフレンチトーストが痩せた人の食道を通るときツツジが雨を飲み過ぎて溺れかけているときアメリカンチェリーの赤さ黒さに見惚れているとき沸かしたお湯の匂いを嗅ぐとき

 

 

 

思い出した思い出せない思わない

 

 


いつもの駅で突然独りきりだと骨まで感じるとき眠たくてよく眠れそうで全く眠れずに迎える4:49布団を足で追いやりつかれて熱い掌にうつくしい朝の色

 

 

 

 

戻れない取り返しがつかない帰れない危ないすべてが脆い頼りない儚い鮮やかなぜんぶが

 

 

 

見なかった夢を他の人が見ていてあかるく笑い涙して肩震わせ山谷峠訳も分からず乗り越えて

 

 

 

食いしばってきた歯は磨り減って変な形キバになれなかった大食漢のかなしい歯トランペット吹きじゃなくて良かったお爺さんの話は笑うところが無い笑うところしか無い

 

 


トンネルの中に相合傘が書いてあった公園だれも愛していないくせに書いてみたかった相合傘を夏にソーダを飲みながら眺めていた汗と砂の匂いソーダのコップから滴る水と見ず知らずの同じ子供の仲間の敵の汚れを

 

 

 


豊か過ぎる賑やか過ぎる溜め込み過ぎるし吐き出し過ぎる見つめ過ぎる聴き過ぎる目を塞ぎ過ぎるし耳を塞ぎ過ぎる

 

 

 

縁を切った相手が現在飼っている犬の写真を載せたSNS喧嘩した意地悪した相手が飼っている犬は溌剌と舌を出している幸せつまり彼女のいつか揺れていた瞳に現在映っているもの

 

 

 

安らぎと鋭さ沈黙引きずり出す力はどうして湧くだろう何故時々無力に横たわるしかなくなるだろう

 

 

 

あたらしい局面信じ難い事実暮らし営み平坦さ凡庸な退屈さ上げ底か底知れぬものか底無し沼の面倒な厄介な伝染する虚ろさ振り払う情熱のぶつけどころ

 

 

無闇矢鱈に疲労メロンを切っても痛み飛び去るものの颯爽とした未知の

行き着くところ微笑敢えて口ずさむ歌愛する人は世間に敗れ敗れたことでほんものであると証明しこの淋しさを痛快に深く歓び噛み締めることは

 

 

何にも代え難い

 

 

 

 

在庫は永遠に無し代替も無し複製も無し清々しく無し!

 

 

 

腕をまくると水に触ることがうれしくなる季節は訪れ

 

 

 


闘う人闘わない人闘えない人誰もがあんまり荒い波の中を船で行くだから汽笛を聞くと泣きたくなる毎日が何十年乗っても操り方の判らない故障ばかりの船で船出と岸辺探しの絶え間なきもっと遠くからも見えるウィンクや敬礼や信号を送って

 

 

 

わたしのはそちらに見えていますか
聞こえると良いのだけれど

 

 


行き過ぎるときに合図するからね