冬の一角獣

真城六月ブログ

2018-01-01から1年間の記事一覧

魔法

動物園のショーを観た日。客はまばらで空は曇り、あなたは健康で、あなたも健康で、もう一人も健康で、わたしも健康だった。 動物園へ行けば気が滅入ることを知りながら、繰り返し行くのだった。そこへ行けばわたしが嬉しいのではないかと望みをかける人のた…

Jam session

十一月半ば、ツイッターで連詩をしたいとツイートし、わたしがはじめたものに連なる形で自由に参加して頂きました。繋げたものをこちらで紹介したいと思います。 Jam session 雨が夜に降り、夜は寒くて樹の中に飛び込んだ。枝と葉の間に夜はいる。猫の瞳の中…

音と無音

換気扇のたてる音と食器を洗う音と薬罐を火にかけている音と 猫が食事を囓る音と誰か廊下を歩く音 遠くを走る列車の音とスマートフォンの通知音と 静かといっても賑やかな音の重なりの中で イヤホンをせずに流れた音楽でストックホルムになる部屋 あいしてい…

眠られぬ夜のオペラ

あなたがわたしを好きなのは、わたしが我慢をたくさんしているからよ。無理をして無理をして無理をしているわたしをあなたはやっと少し好きでいてくれる。軽んじながら。疎ましく感じながら。 どうしてこんなだろう。書いた詩人がいたけれど、ごく低いレベル…

秋は綿の味

いろいろな秋があり、読書の秋とも言いますが、わたしにとってこの秋は、どうやら読書がいまひとつ捗らない秋であるかもしれません。 読みたいと思って、いざ本を開いてもなかなか頭にすんなりと入って来ません。そんな時期もありますね。今まで読んできたも…

姿形

傘さして買い物帰り、横断歩道を渡るとき、銀の雨が花壇に降り注いでいるのを 歌の無い暮らしを 電話をかけられない日の 十五年前に着ていたコートに袖を 針と糸 針と糸 針 糸 糸 糸 糸 糸 糸紡ぎ 連なり 繕い 解かれ ほつれ か から から 絡まり 絡まりやす…

子猫兎

夢の中で知らないけれど懐かしい感じの定食屋さんにいて、そこのやっぱり知らない人だけれど懐かしい店主に懸命に話をしているのでした。 この間は、そうです!そこのカウンターの右から二番目の…そう!そこの席です。そこで焼き魚の…。そうです。あの、わた…

八月 読むこと思うこと

こんにちは。こんばんは。 八月です。夏です。暑いですね。台風が来たり、雷が鳴ったりします。猫の鼻はちゃんと濡れていて、八月の濡れた鼻です。 今回は最近の読書からメモを置いてみようと思います。 私のものを盗み、相手の行為に私の方がはじらって、気…

海に似て

ひとりもない談話室で元気な自販機のあかるさが眩しい 整然と配置された清潔な机と椅子がおそろしいから座れずに歩き回ることも出来ずに見るものもなく立ち 助けを求める人のように窓に寄った 七月の空だった 膨らんで呼吸の荒い雲だった 海に似て青い果てま…

笑う夏

七月になりました。 今年は六月からとてもとても暑い日が続いています。あんまり暑いと何をしたわけでもない日も暮れる頃には疲れていたりするものです。そうして、疲れているからすぐにもぐっすりと眠りたいのに、また暑い夜なものですから、いつまでも眠れ…

孵化の傷

子供の頃、女の子達の間で流行りの遊びがあった。それは遊びと呼ぶにはあまりにも趣味が悪く、罪深く、低いことがらにあってもまだ低いといったもので、許されて良いものではなかった。それは仲の良い友達を傷つけるというものだった。互いに傷つけあうこと…

うつすものうつさないもの

最近は様々な画像加工アプリなどがあり、上手に使う人が多い。 手探りで利用してみると、なるほどとても面白く、時間を忘れて色々と加工を楽しんでしまう。色味を変えると、晴れた青空は薄暗くなるし、平凡な街路を百年前の道に変えてしまうようなエフェクト…

看花

渡り廊下が好きだった。通れば、橋を渡っている気分に少し浸れる。浮橋のイメージ。吊り橋。滑走路。脆そうな、危ういような足音と浮遊感、いつかも通った既視感。なにかとすれ違いそうな予感。それでいて頑丈などこにも隙の無い安心感。みんなで通るときよ…

サカナの手紙

昨夜の夢であなたは現実と遜色ないうざったさを発揮し、私にあなたに宛てて手紙を書くよう迫りました。狂おしいことに、あなたはその手紙を送る際に使う封筒まで用意していました。それには既に、あなたに届ける為の宛名まで書いてありました。どういうつも…

羽ばたき

あかい花が咲いていた誰もいなくなった家 名前が消えかけて見えない郵便ポストと 白いつつじの向こう 根元に小鳥を眠らせて茂る枝葉をひろげる樹 手を上げ下げする度に眩しい緑のざわめきの響き渡る公園で 四月いつかいまとおなじように光った すべてもとど…

イチイ

風は少しずつ緑色になり、立ち止まる前に歩いて来た道のすべてがうまく燃え上がれば良い あなたは夜を更けるままにしろと言うあなたは涙を流れるままにしろと さかさまになって地に落ちた頭を取り上げ首にくっつけて、こうだと言う 珈琲は熱かった すぐに冷…

春は読みもの

あたたかくなってきました。 春は足が歩き、心が歩き、肩がコートを脱皮したがって、頬があかるくなって、眠たいですね。雨だけ、冷たい銀色です。身体の外側で自分が踊っていて、なかなか戻ってこなくなるような春です。 同じ本を読んでいます。いつもそう…

らしさ らしさ

水色、ピンク色、紫色、赤色、黄色、色とりどりのペンや缶バッジ。例えば、小さなノベルティなどを頂く際、お店の方は「どのお色になさいますか?」と、選ばせて下さることがあります。 好きでない色は無いし、どれもきれいだと思うときなど、ご迷惑かもしれ…

『結び目』について

前記事『結び目』について、補足を少ししておきます。 前記事に限らず、全ての文章をご自由に解釈して頂くことを望んでいますが、『結び目』においては私から出たのではない言葉を取り入れています。『結び目』の最後の段は私自身が学生時代に実際に教師から…

猫の貴方

どうして近づけは良いか分からなかった。きれい過ぎるとこわくなるでしょ。惹かれ過ぎると好き過ぎると触れなくなるでしょ。そうだったの。機嫌損ねたくなくて、嫌われたくなくて出会うことも一生懸命回避して。 だけどある日、髪を切ってもらっていた時、前…

お届けもの

粉雪綿雪雨のち花吹雪待ち 行き過ぎる電車の音を聞く夜々 身の内を流れ巡り笑い方になる過去 指に巻きつけたあやとりの糸縺れ縺れ 光に触る胸の痛みが手放したときに冴え いつも帰るように眠る日毎の夢をみること もうすぐバレンタインデーです。 上にある言…

雪に降られて赤い花

日が暮れはじめた頃、カフェで友人に手紙を書いていた。 ミリアムもトトもいない街で本を買いに行きました。その本は売られていませんでした。 「薬屋さんで薬を買って帰るからね」 そういうことの度にシュペルヴィエルの青年や賢治の少年は甦る。きれいな若…

星空

年が明けて十日も経ちますと、年末の頃の感情を遠く感じだします。クリスマスソングはまだ頭の中に鳴り続いていて、お餅を食べているサンタさんと七草粥を眺める何処かの七面鳥と富士山と日の出とほっぺたツヤツヤの新成人の中振袖が華やかにゆっくりと通り…