冬の一角獣

真城六月ブログ

2019-01-01から1年間の記事一覧

2019

十二月も半ばを過ぎ、日毎寒さがつのります。着てはもらえぬセーターを寒さこらえて編んでます。 お元気ですか?そして今でも愛していると言って下さいますか? 一年の締めくくりにまとめのご挨拶を兼ねての更新だというのに、ふざけてすみません。風邪など…

見せたい骨

棲家が必要でなくなったもの達の夢みた自由が夜になった街の外気で それをわたしたちが呼吸すると何かを忘れているような気持ちになる 冷気 靴の裏から伝わる 誰かの夢 今もあたらしく誰か夢みている それが呼吸される みんな雷に打たれる ひとり残らず打た…

卵が茹で上がるまでのワルツ

卵が茹で上がるまでのワルツ 人と人が争っているね 聴いてくれ聴いてくれって喚いているね 聴いてもらう唯一の方法は聴くことなのにね 愛して愛してって苦しんでいるね ほんとうに何を思っているか欲しているか解らないのは 鏡を見ないから? 鏡を毎日覗き込…

歌の中を

深夜、帰路、電車の中で 眠りかけて俯いた君を隠す髪の色の深夜、夜の深まり 窓硝子越しのくしゃみ、出なかった電話、打たれた日のアイスクリーム、冬のいななき、誰もいない国道 口笛、掠れ声、一粒だけの雨、予感にまつわる予感、あてにならない今月の助け…

どこから来たの(オペラとサカナ)

ねえ。誰かに外で会った時、今日はどこから来たの?って訊かれることがあるでしょう?あれ、変な質問だと思わない? 変なのはあんたでしょ? 待って。わたしは本当に意図が分からない質問だなって思うの。最初なんて、今日はどこから来たかって訊かれて、家…

ささくれにオレンジ

お久しぶりです。ひと月ブログの更新をしませんでした。2014年に始めてから、これまでで一番長い空白でした。もともと更新の少ないブログですが、書かずにいるのは既に自分がさびしいです。 どんな状況であれ、取り組めることはあり、思い込みや捉われで、何…

黄金の午後

七月は雨がよく降りました。朝に夜に良い日に辛い日にいつも降りました。 雨で心が痛む人も安らぐ人も、雨で身体が痛む人も眠たくなる人も、降っても晴れても変わらぬ人も、豊かで過酷な地球で生きものをしていたでしょう。わたしもしていました。時々間違え…

透明

バーガーショップの二階から電話をかけようか迷っている。 追い出されて出て来たけれど、すぐに帰れと命じられて透明になった。 街に店の中に同じように透明な人が大勢いるので驚いた。透明なのは特別なことではないのね。なにも。 身体の中にソーダが入って…

アンダンテ

平日の昼間の地方都市の商業ビル上階のゲームコーナーの光や音のそばを通ることが好きだ。人がいないゲームコーナーはびかびかに輝いて痛烈に淋しい。おどけたアナウンスが誰もいない空間に語りかける。 「ガンバッテー」 ああ、何を頑張れと言うの?コイン…

とおまあ

手のひらが自分を打ってしまって痛みがある夜の見慣れない文字を見つめる船底から聞く雨音 滑り落ちて下から上へ読んでも同じくらいに分からない異国の呪文遡れさかさま遡れないさかさま 目に食べさせる情報が身体を巡りわたしになる頃なくしてしまうものを…

合図

苦し紛れのフレンチトーストが痩せた人の食道を通るときツツジが雨を飲み過ぎて溺れかけているときアメリカンチェリーの赤さ黒さに見惚れているとき沸かしたお湯の匂いを嗅ぐとき 思い出した思い出せない思わない いつもの駅で突然独りきりだと骨まで感じる…

うたつぐみ

窓を開けると、聞こえる歌。忙しい日、塞ぐ日には能天気なその声がしばしば神経を逆撫でた。 その歌が聞こえない。 歌っている人は近所の婦人なのだった。小柄で控えめな様子の人なのだった。すれ違う際には、ほとんど聞き取れない声で挨拶してくれる。 その…

眠れるサカナ

気配を感じて目を開くと、あなたはわたしを見ていた。夜中。明け方近かったかもしれない。眠っているわたしをあなたは見ていた。 微睡んでいたからもの思う余裕も無く、目蓋は緩慢に、何にも引き留められずに閉じた。やっと意識を手放して、逃げ込んで、閉ざ…

一緒に狐になること

色鉛筆を買わなかった。昔好きだったミュージシャンが表紙を飾る雑誌を買わなかった。ドライアプリコットを買わなかった。飲み続けていたサプリメントをやめた。 右を向いて眠らなくなった。電話が鳴ってもゆっくりとして驚かなくなった。いつまでも表皮を掠…

うすくれない

あんまり遠くて迷いながら歩き過ぎてべそかきながら悪態つく相手がいたしあわせ春休みじゃなかった? 電車を乗り継ぎしあわせになるペンダントを買いに行ったあまり賢くない女の子達ふたりとも学校が嫌いでひとりはお家も嫌いでもうひとりは習い事も嫌いで微…

兎だらけの三月

シェリーの詩集を何気なく開く。その頁にある詩行に捕まった。 「骸骨」となった「霜」を夏の墓へ追いやる「春」の化身のような美しい「幻」がーー この詩は『エピサイキディオン』という詩で、冒頭には、「いま修道院に幽閉される不幸な貴女エミリア・Vーー…

春燈

白いドレスを着た人が微笑む。誰に向けてでもなく。そういう写真。静かな香り。薄い茶色のぬいぐるみ。深紅の毛布。枕からはみ出した髪の毛。今日か明日か。昨日か夢か。あなたは天使ですか。あなたは虹ですか。何で出来ていますか。塩は要りますか。雨が降…

淡いもの

晴れた日 昼間 コンビニエンスストア店内 小さな王様を乗せたベビーカーを押す王様のパパらしい人は立ち止まり、棚の商品を見ていたから、わたしはパパにバレないように王様と目を合わせる機会を得た。わたしは少し離れたところから、王様に戯けてあっかんべ…

サカナの夢日記

階段を下りる。電気は辺りを明るく照らしている。人はまばらにすれ違う。上ってくる誰かの髪。下りながら誰かの足。踊り場。また階段。独りきり下りる。どうやら地下鉄の。どんどん下りる。時々楽しくなって早足で駆け下りる。息が少し上がる。それが嬉しく…

光年レストラン

シェフはわたしが苦手だった。両親に彼女と話すのは緊張すると言っていたらしい。 そのレストランはもう無い。 家族でよく通った。そこは小さな寛げるフレンチのお店で、とてもカジュアルな雰囲気なのに料理はどれも本格的で美味しかった。そこでわたしは初…

眠り物語り

勝ってはいけないし、敗けてもいけない。勝つことを避けるのは出来そうだが、わざと敗れてはいけないのだ。 シモーヌ・ヴェイユの戦争に対する思想の周りを考え考え、玉ねぎを切る。 敗れてはならない理由は、相手の勝ちに加担してしまうからだ。相手を勝者…