冬の一角獣

真城六月ブログ

好きになった瞬間

九月です。やっほう。いかがお過ごしですか。
雨がよく降りますね。少しまた涼しくなり、眠りやすい夜々です。

今回は一緒に暮らしてくれている猫について少しだけ書きます。

大きくて重い元気な四歳の男の子なのですが、彼を見ていてふと、この子をほんとに好きになったのは確かにあのときだったなとしみじみと思い返す瞬間があります。

彼が生後三ヶ月頃、初めて健康診断のために病院に連れて行きました。
診てもらって、めでたく異常無し。
それでも診察の間ずっと怯えて興奮状態の彼の様子は哀れで、私も不安で医師と目を見合わせたりしていました。
医師が上手な爪の切り方を教えてくれるというのでお願いしました。
彼は初めての経験に戸惑い、ものすごい抵抗をしました。聞いたことの無い唸り声をあげ、小さな背中の毛を逆立てて必死に威嚇しました。全身に力を込めて、足は診察台に踏ん張り、お腹は荒い呼吸で波打っていました。彼は絶対になすがままにはなってくれませんでした。医師は汗にまみれて爪を切ってくれました。
私は黙ってこの様子をそばで見ていました。
医師の手から逃れようともがきながら、彼は私の目を見ました。「殺されてしまうかもしれない!」と訴えているのが伝わってきました。「嫌だ!生きたい!死にたくない」と泣き叫ぶのが。
そのとき、私は彼をほんとに好きになったのだと思います。彼が私の身内になった瞬間でした。間違いなく、そのときから彼は私にとって特別になったのでした。

なんでもないようなことで不思議なものですが、このことは味わってみなければ分からない、思いもよらない事柄のあれこれで自分は成り立っているのかもしれないと感じさせられることでした。これにどこか通じる説明のつかない、訳のわからない事柄やそれにまつわる感情の揺れ動きは誰の生活の中にもあるかと思います。たぶんそれは、みっともなさ、恥や情けなさ、愚かさ、むきだしの本音などの方からやってくるような、そんな気がします。そういった瞬間にこれからも何度か何度も立ち会うのだろうと思います。








蛇足!一応、本や読書のことについても何か少し結びつけて書かなければマズイかなという強迫観念を追いやるために私の好きな猫の本及び作品を以下に記しておきます。それではお元気で。またね。


ポール・ギャリコ『猫語の教科書』『ジェニィ』
内田百閒『ノラや
笙野頼子『愛別外猫雑記』
吉行理恵『湯ぶねに落ちた猫』
町田康『猫にかまけて』
宮沢賢治『どんぐりと山猫』『猫の事務所』
レオノール・フィニ『夢先案内猫』
野溝七生子『猫きち』