冬の一角獣

真城六月ブログ

春の新しくない本

ほんとうに暖かくなってきました。

春は胸騒ぎがします。

吹く風にあたると、もどかしいような気分になります。雨も春の雨だと思うと冬の間に降っていた雨とは違って見えて、なんだか無造作に降っているような感じがします。鋭さの無い柔らかな水が肌にあたる度に後ろを振り返ってしまいそうです。

平静でいられないのは愉しいですね。

どうもうわの空で使い物にならないような自分を持て余しては、やっぱり本棚の前に佇んでいることが多いこの頃です。
一冊抜き出して、開かずにまたしまったりして。

日々新しい本が無数に出版されていますが、私はほとんど新しい本を読みません。私の読書は同じ本を何度も時間をおいて再読するものです。
本棚にぎっしり詰め込まれた何度も読んだ本を眺めていると、もうこれで十分だ。一生分ある。といつも思います。
それでもやっぱり少しずつ増えてしまう新しくない本たちです。それらもまた再読されるために本棚に加わる本たちなのでした。

季節と読みたくなる本って、関係あるでしょうか。私は季節外れの調子っ外れのデタラメ人間なので、正直あまり考えたことはありません。春には三島由紀夫の『春の雪』で夏にはシェイクスピアの『夏の夜の夢』で秋には古典文学、短歌に詩集。冬にはディケンズの『クリスマス・キャロル』を必ず手に取りたくなるわけでもありません。読みたい時が読める時だと思っています。

ですから春にぴったりの本を紹介するなんて出来ませんが、春の胸騒ぎに似た印象を受けた本なら何冊かあります。胸騒ぎを鎮める本では無く、胸騒ぎする本です。何冊かタイトルと著者だけ書いてみます。タイトルは作品名だったりします。

『杳子』 古井由吉
『外科室』泉鏡花
『雁』森鴎外
『ドルジェル伯の舞踏会』ラディゲ
『夜間飛行』テグジュペリ
『嘔吐』サルトル
『Xへの手紙』小林秀雄
『姫たちばな』室生犀星
『山梔』野溝七生子
アナイス・ニンの日記』
『魔術師』谷崎潤一郎
『鈴木主水』久生十蘭
『香りから呼ぶ幻覚』尾崎翠
『ミリアム』カポーティ
『孤島夢』島尾敏雄
『鳩』日影丈吉
『どこにもない場所』倉橋由美子
『面影双紙』横溝正史
『彗星問答』稲垣足穂
『恋をしに行く』坂口安吾
『雪後』梶井基次郎

まだ他に胸騒ぎする作品は沢山ありますが、今思いついたものをあげました。これに好きな詩人の詩集を何冊かと与謝野晶子訳の源氏物語とりかへばや物語サリンジャーの作品全部とプルースト失われた時を求めてを足せば一生分の胸騒ぎは補充できそうです。

ここまで書いてきて今さら申し上げにくいのですが、実はまだあまり頭が回りません。ですからおかしな内容だと思いますが、こんなことしか書けませんでした。お許しくださいお代官さま。

皆さんの春はどんな春でしょう。
胸騒ぎすることはありましたでしょうか。

これを書きながら今、頭の中をナンバーガールの『センチメンタル過剰』という曲が流れています。突然、懐かしいこんな歌詞が浮かび上がる回らない頭なのでした。結構愉快です。



「胸騒ぎの放課後かい?」