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冬の一角獣

真城六月ブログ

おやすみタオルはからし色

うんと小さい頃、眠るときに必要なタオルがあった。

それが無いと寝付かないので、両親は一泊の旅行でも必ずそれを荷物にした。

他のもの、似たものでは全く駄目なので、タオルは信じられないくらい繰り返し洗濯された。
鮮やかだった色は褪せ、握り締め、噛み続けた繊維はぼろぼろになり、見るも無残なタオルはそれでも絶対に必要なものだった。

包まれ、凝視し、思うさま触れながらやっと眠った記憶は遠い。
ランプを灯したような色だった。

何故それがあんなに特別だったろう。
不思議だけれど、日々は忙しい。
とにかくおやすみタオルがあれば安心だ。一切の不安は霧消し、安んじて眠れる。あのタオルさえあれば。

タオルを必要としなくなって、どこでも眠れる人間になった。厄介で面白い癖は当然のように消えてつまらない大人になった。

無用となったタオルはそれでも大切に押し入れ深くにしまわれていた。何度目かの引越しで遂に処分した時も名残惜しい様子でいたのは両親の方だった。

だってもう必要じゃないしね!

あちらこちらで見る新しいけれど懐かしい寝具や衣類。百貨店。
ある日何故だか空虚に彷徨っていて、買わなければいけないような強い気持ちにさせられて買って帰った枕カバーがあった。何も考えず。ただ欲しくて堪らなくなって。

後日、枕を見た母が言うのだった。
「それ、おやすみタオルの色ね」

そうだったのか!参ったな!

ところでみんなはすやすや眠れているかしら。

おやすみタオルは形を変えていつまでもそばにあったりするのかもしれないと思う四月も飛び去って行く夜。