夢見の衣裳 【創作】
ある夜、彼女は夢を見た。
彼女は変わった服を身に纏っていた。
それは世にも珍しく、うつくしいドレスだった。
彼女はそっと座ったり、また慎重に立ち上がってみたり、落ち着かない気持ちを抑えて深呼吸をしたりした。
いつもはしない仕草で誰もいない方向へ向かってお辞儀をした。
くるくる回るとドレスの裾が膨らんで豊かに波打った。
あまりのよろこびに彼女は笑うことも出来ずにただ瞳を揺らした。
手を広げ、駆けた。息が切れ、うつ伏せに倒れこんだ。
何も無く、誰もいないところだった。
彼女は二度と嘘をつかずにいられるのだと思った。
このうつくしいドレスを着て、もうどんなものとも出逢わない。彼女は目蓋を閉じ、涙を流した。
鏡を見たいと思い、鏡は見たくないと思った。
それから生まれて初めて安んじて眠った。
夢から目覚めたとき、あつい毛布に包まって彼女は「いやよ!起きたくない!」と胸の内で叫び、強く目蓋を閉じた。
先刻まで我が身に纏っていた、襟元と袖口は朝焼け、裾は木洩れ日、全体は月の光の色をしたドレスを思い出していた。
彼女の身体は毛布の中で段々と消えていった。裏地は夜空だったと思い返した瞬間に彼女はすっかり隠れてしまった。毛布の中は空っぽになった。
最後まで残っていたのは、朝の空いっぱいに溢れる微笑みだった。