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冬の一角獣

真城六月ブログ

雨のお姫さま 【創作】

よく晴れた朝の空を見上げながら女の子はため息をつきました。

もう一週間も晴れた日が続いていました。少しでも曇ると女の子は雨が降るかもしれないと期待するのですが、すぐに空は晴れてしまうのでした。

新しいお気に入りの傘を差したいわけではなく、苦手なマラソンが取りやめになってほしいからでもなく女の子は雨を待っていました。

そんなにも雨が待ち遠しいのは女の子がもっと小さかった時に出逢った雨のお姫さまが原因でした。

女の子がとても小さかった時のことです。

女の子のお家で飼っていた猫が居なくなってしまったことがありました。女の子と家族は来る日も来る日も猫を捜して彷徨いました。

そのうち、激しい雨の降る日がありました。

女の子の家族は諦めて捜しに行きませんでした。女の子は誰にも知られぬように家を出て、わあわあ泣きながら道を走りました。いつも通っている公園に着きそうになった時、女の子はあんまり疲れてしゃがみ込んでしまいました。

雨はどんどん降ってきます。女の子はびしょ濡れになって泣いていました。猫のことを大好きだったからです。

急に雨が身体にあたらなくなって、女の子は顔を上げました。見上げると天女のような女の人が傘を差しかけて女の子を見下ろしていました。傘を持っている左手の反対の右腕の中には女の子の猫がずぶ濡れで抱きしめられていました。
女の子は凄い勢いで立ち上がり、猫を女の人から奪うように受け取りました。女の人は静かににこにことしてゆっくりと今度は女の子の胸にいる猫の背中を撫でました。一頻り猫に頬ずりした後、まだ興奮していた女の子は叫ぶように「ありがとう!」と言いました。女の人は相変わらず微笑みながら頷いただけでした。「あなたは誰?」女の子が聞くと「わたしは雨よ」と女の人は答えました。「雨って?」女の子はまた聞きました。女の人は黙っていました。

女の子はその不思議な女の人に傘を差しかけてもらいながらお家に帰りました。
「ありがとう。バイバイ」と女の子は玄関のドアの前で言いました。女の人は手を振って何処かへ行ってしまいました。

それから女の子は毎日女の人のことを考えました。そして、あの女の人は雨のお姫さまだったんだ。と思うようになりました。

雨の降る日にしかお姫さまには会えないだろうと思い、女の子は雨を心待ちにするようになりました。雨の日にはきっとまた会える。そう思って雨の日にはいつもよりきょろきょろと辺りを見回しながら歩きましたが、お姫さまには会えません。公園にも何度も行きましたがお姫さまはいませんでした。

それでも女の子は雨を待ちます。そして訪れた雨の日には差している傘を少しの間ずらして空を見上げます。まぶたにあたる雨の粒に頬を濡らす雨の雫に静かなお姫さまの微笑みを感じるからです。どこか烈しいような底知れない熱のあるような熄まぬ音楽のような目をしてお姫さまは其処彼処にいるような気がするのでした。
もしかしたらもう何度もそば近くすれ違っているかもしれません。

お姫さま、猫は元気でよく笑います。


女の子は雨が好きです。