眠り物語り
勝ってはいけないし、敗けてもいけない。勝つことを避けるのは出来そうだが、わざと敗れてはいけないのだ。
シモーヌ・ヴェイユの戦争に対する思想の周りを考え考え、玉ねぎを切る。
敗れてはならない理由は、相手の勝ちに加担してしまうからだ。相手を勝者にしてしまうのはいけない。
争わないというのが、最良であっても相手にとってはそうでなかったりもする。つまり相手というのをなくしてしまう他無いのだろうか。自分をなくして、相手をなくして。敗れずに、誰も勝たせない。
自分の頭では到底追えないことを考えて、何をしているのかと思う。
晴れた日が続く。暖房の効いた部屋の窓から見る外は、時々春かと勘違いさせる。冬の昼の陽。死んだ木にも降り注いでいる光。
枯れた葉にあたるとき、陽射しが暖めているものは、なんだろう。
三つ葉を嗅ぐ。柚子の皮を千切りにする。
夜は冷たい。「霜降る月待てば」という歌詞の歌があったのを思い出す。冬の夜空はうつくしい。
ある夜には、大島弓子の『ダイエット』を読み返して泣いた。わたしは目に見えない形で精神的な意味で福ちゃんだったことがあるけれど、わたしにはカズノコはいなかった。カズノコ無しでも生き続けられたのはどうしてだったろう。作品の中で人が問題を乗り越えていくところを見るのは嬉しい。自分の問題は変わらずそばに横たわったままにせよ、それもこれも携えて歩かなければならない。
自分の為に花を買い、自分の為に活けるようなことをしない理由。理由は無い。いつでもある時突然に気づく思い込み、捉われ。沢山のものを惜しみなく捨てたい。手を放し、別れたい。ノーと言いたい。無視したい。出来ない理由、してはいけない理由は無い。
桃の花を見たい。
いま、心の中で話しかける人がいる。おさなごころのきみは、明るくよく笑う人だ。彼女は乗り越え続ける。わたしは彼女と一緒に南の島に行くのだ。いつかはいつになるだろう。彼女とわたしは迷路の中で知り合った。彼女はわたしを助けてくれた。わたしはサイコロを振って、何度も六を出して、彼女と遊びに行きたい。ありがとうと叫んでも誰もいない海を知っている。海の中で目を開けて魚を見る遊びを彼女は嫌がらないかな。嫌がられても後で一緒にジュース飲めばいいや。
毎日の行き止まりで、立ち尽くすわたしたちの未来で待つ魚。日々は波だから流されぬように浮かんで沈んで泳いで息継ぎして。頭を水面に出したわたしたちは、いつもそこがどこだか分からずに「あれ?」なんて顔をしたあざらしみたい。すぐにまた波が来て、隠してくれるけれど。一瞬のうちに伝え合うことの難しさ。銀河の果てしなさ。
桃の花。極北で咲く花。
指でなぞって、地図。懐かしいストックホルム。行ったことのない場所はすべて懐かしい。
ラジオの本体に書かれた数字ってきれいね。かっこいいし。ずっと見ていられるよね。かっこいいし。
眠ろう?夢で優しくなって。誰もみていないから。おやすみ。