冬の一角獣

真城六月ブログ

お月さま 【創作】

レストランの角を曲がり、公園通りを歩いていると向こうに頭の小さな白い毛並みのほっそりとした姿が見えた。

ゆっくりとこちらにやって来る。

私に気づくと立ち止まった。

「お月さま、こんばんは」

夜の帳が下りる頃、藍色の空の下で挨拶をした。

お月さまは静かに少し疲れたような瞳で私を見る。
いつものことだ。
きれいに両前足を揃えて座り、黙って人を見る。

初めて出会ったずっと昔から変わらない姿と眼差しでお月さまは私を見る。

暮れて深まる宵闇の中でお月さまは白く白くなっていく。

ずっと昔にお月さまがお月さまだと教えてくれたのは近所に一人で暮らしていた老婆だった。まだ小さかった私に「あれは、お月さまだよ」と囁いた彼女は火事で家ごと焼かれてしまった。それも随分前のこと。


私は町のあちこちでお月さまとすれ違う。毎日のように会うこともあれば、半年見ないこともある。


塀の上を歩くお月さま。
日向で寝転ぶお月さま。
駐車場を散歩するお月さま。


何度も繰り返し会うお月さまはいつも私を嬉しくさせた。塞ぐ日も何かを失った日もつまらないことではしゃぎ過ぎた日もお月さまのいる町は私の帰るところだった。


いつも一人の時、お月さまの白い影は遠く近く横切り、語りだしそうな瞳でこちらを振り返る。


やがてお月さまは瞳を伏せて踵を返し、去って行く。


私はその後ろ姿を眺めながら胸の中で声をかけた。


「あなたが欠けると夜は暗いです」