冬の一角獣

真城六月ブログ

子羊たち 【創作】

黒い子羊は白い子羊と仲良くなりたいと思っていました。

みんなと一緒にではなく、二人で遊びに行きたいのでした。

だけど黒い子羊は中々白い子羊を誘えませんでした。

白い子羊のまわりはいつも邪魔者がいっぱいでした。

ある日、黒い子羊は邪魔者たちがお喋りしているそばに寝転がって話を聞きました。

大人たちが行ってはいけないって叱る、遠い森の奥に一角獣がいるんだって。
見たい!見たい!
だめだよ。こわいもん。
お母さんも一角獣も森も全部こわい。

お喋りな子羊たちはきゃあきゃあ騒ぎながら、そんなことを話していたのでした。
黒い子羊は、こりゃあいい。と呟いて白い子羊のところへ走って行きました。
白い子羊は珍しくひとりでした。
黒い子羊はやっぱり勇気が無くなって帰ろうとしました。でも見つかってしまいました。

「黒い子羊さん。こんにちは」
「どうも」
「お散歩?」
「今からね。森の奥に行くよ」
「森の奥になにがあるの?」
「一角獣がいるよ」
「いる場所、知ってるの?」
「もちろん」
「一緒に行ってもいい?」

黒い子羊は心の中で、やったあ!と叫びました。

「別に来たいならいいよ」

黒い子羊の後を白い子羊がついて歩きました。
嘘をついた黒い子羊は、なるべくいかにも一角獣のいそうな方向だと思える険しい森を分け入って行くのでした。しばらく歩いていると、白い子羊が聞きました。

「こっちでいいの?」
「言っておくけど、いつもいるとは限らないからね」

苦しい言い訳を呟きながら、黒い子羊は進みました。そして、開けた泉のある場所に出ました。いかにも一角獣のいそうな場所でした。見たことのない花々が咲き、うつくしい色の羽を持つ鳥たちが休んでいました。

「ここだよ」
「ここで一角獣を見たの?」
「残念。今日はいないみたいだね」

白い子羊はじっと黒い子羊の目を見つめてきます。黒い子羊はそわそわしました。

「ここでちょっと休もう」

黒い子羊は目を逸らして泉のそばに座りました。白い子羊はまだ同じ場所から動かずに黒い子羊を見ていました。

「なにしてるの?」
「嘘ついたね」

黒い子羊はびっくりして黙っていました。

「大丈夫。わたしも嘘ついたから」

白い子羊は言いながら、黒い子羊の隣に来ました。

「わたし、いる場所、知ってるよ」
「え…」
「知らないふりしただけ」
「なんで?」
「一緒に行きたくて黙っていたの」
「ほんとはどこにいるの?」
「こっち」

ふたりは連れだって、また歩きだしました。さっきまでよりも、すっきりとした気持ちで歩きました。
夕暮れ。泉のあった場所からずっと遠く、ありふれたように思える場所にやっとふたりは着きました。

樹々の間からふたりは静かに垣間見ました。一角獣は眠っていました。

「よく眠っているね」
「起こさないようにしようね」

黒い子羊は白のような銀のような降っていない雪に降られているような一角獣の毛並みを見ていました。思ったよりずっと、その生き物はおとなしそうに見えました。白い子羊が促して、二人はそっとその場を離れました。

帰る道で、白い子羊が言いました。

「秘密だよ」

黒い子羊は嬉しくて胸がいっぱいでした。

子羊たちは二度と一角獣を見に行きませんでした。

それでとても仲良く暮らしました。