冬の一角獣

真城六月ブログ

サカナの手紙

 


昨夜の夢であなたは現実と遜色ないうざったさを発揮し、私にあなたに宛てて手紙を書くよう迫りました。狂おしいことに、あなたはその手紙を送る際に使う封筒まで用意していました。それには既に、あなたに届ける為の宛名まで書いてありました。どういうつもりであんなことをするんですか?その可笑しな封筒(あなたは私になったつもりで、宛名を書いたと言いましたが、私の字はあんなに下手ではありません。左手で書いたのかと思いました。字も下手なんですね)を受け取らなければならなかった気の毒な私は、夢であなたと別れ、目覚めてこれを書いています。お願いですから、私の夢にあまり凝った登場は控えるようにして下さい。

 

 

さて、書き綴ることが見当たりません。当然です。五百年生きるぶんほどももうあなたとはお話ししてきました。あえて今更、手紙で伝えたいことなどありません。あなたはひどくお喋りです。私にはあなたの真似は出来ませんし、そうするつもりもありません。あなたはどんな勝手な期待を寄せてこれを読んでいるでしょう。ご期待には応えられません。ご存知のはずです。

 

 

そうそう。少し前に私があなたに貸した裁縫道具を早く返して下さい。わざわざ言わせないで返すべきです。

 

 

ほんとうに書くべきことがありませんから、最近読んだものから気に入っている箇所を少し引いておきましょう。願いや望みが叶うことを健康的に待ち、喜ぶことしかないあなたに、願いの叶うことを忌避しがちな私のことを紹介出来るかもしれません。あなたは私の知る人で最も汚れていない人物で、それだからこそ最もかなしい人物なのかもしれません。あなたのかなしさに値する友人でいることは時々困難で、大体誇らしいと記しておきましょう。

 


以下、引用部分。


「ある若い女性が義兄に恋をした。一方、この男の妻である彼女の姉は死にかけていた。そこで彼女は、あの人はもう自由なのだ、わたしたちは結婚できるのだ、という思いに脅えてしまう。そこで、この思いを瞬時に忘却することで抑圧プロセスの作動を可能にし、結果的にヒステリー症状を招くことになった。ところで、この症例には神経症に独特な葛藤解決法が見られ、興味深い。彼女は義兄への愛という衝動の充足を抑圧し、そのことで現実が変化するのを認識している。これがもし精神病的反応であれば、むしろ、姉が死にかけているという事実のほうを否認したことであろう」

 

フロイト著作集』より。

 

 

では、これにて。裁縫道具を早急に返却するように。

 

 

オペラ様へ。友人かもしれないサカナより。