冬の一角獣

真城六月ブログ

桜手品

 

 

 

三月の裏側に跳び出してあの子は何処にいる。

 

 


はじめは少しだけめくれた三月の端っこを見つけて胸がどきどきしただけだった。

 

 

 

誰もまだ気づいていない。

 

 

 

めくれたところを見ないように素早く通り過ぎて、走って帰れば良かったかもしれない。振り返らずに、振り返らずに走って帰れば、チョコレートだった。お風呂だった。明日はポニーテールだった。ワニのぬいぐるみとベッドに潜り込めば忘れてしまえたのに。

 

 

 


あの子はめくれたところが気になって、戻ってしまった。それから、もう夢中で、小さな指で三月の端っこを引っぺがした。

 

 

 

 

裏側に跳び出してあの子はなにをしているか。なにを見たか知ったか。

 

 

 

 

何処を探しても傷一つ無い三月に方法は無いから迎えにも行けない。あの子が戻って来られるのかも知らない。

 

 


なんだって?

 

 

 

 

三月の裏側に行きたいなんて冗談を言わないで。わたしたちには四月が。

 

 

 


それに。

 

 

 

 

 

 

可哀想なのはあの子のワニ!いつも笑った顔でいるしかない悲しいワニ。あのワニのぶんを代わりに泣いてあげて。