恐竜を担いで
十一月の雨の音は夜に部屋の中まで冷たく響いています。何もないのに驚くほどたくさんのものに包まれながら書いています。
何時何処でだったか忘れてしまいましたが思い出したことを少し。
何かのイベント会場で一緒にいた人々とはぐれて一人、ぶらぶらと賑やかな会場を歩いたことがありました。
様々な露店が並び、目に鮮やかな色の波間に心は躍る…はずでしたが、不思議に落ち込み、冷めていく訳の分からない気持ちで歩いていました。
立ち止まらず、引き返さず、ひっそりと歩き続けていると、ひときわ明るく賑やかなお店の前に来ました。
威勢の良いおじさんが大きな声でお客さんを呼ぶ背後には巨大なひな壇があり、どの段にもびっしりと色々なぬいぐるみが飾られているのでした。
普段ならもちろんすぐに夢中になって、ぬいぐるみを欲しがるわたしでしたが、その時は少しも心が動きませんでした。
それでもぼんやりと立ち止まり、ひな壇を見上げていました。
どういう訳かわたしはくじを引きました。
欲しくないなあ。と、思いながら一回だけ、くじを引きました。
福引のがらがらを回すとき、間抜けな音を聴きながら随分たくさんのハズレ色した球を思いました。
果たして、出て来た球は橙色をしていました。
わたしはティッシュか団扇を貰うために、貰ってさっさと立ち去るためにおとなしく待ちました。
少し間があって、見上げたおじさんの顔は明るかったです。
おじさんは腕を振りましてハンドベルを鳴らしました。
「出ましたぁっ!大当たりぃっ!一等!一等です!当たりぃっ!」
肩にサンタクロースが担いでいるのにそっくりの大きな袋を乗っけて、わたしは歩きました。歩きながら、さっきその袋に入れてもらったミントブルー色でやたら笑顔の恐竜のぬいぐるみを思い、なんだかやけに可笑しかったです。とても歩きにくかったのを憶えています。とても重たかったのを、しょっちゅう躓いたことを憶えています。やがて落ち合った人々に得意だったことを。見て。この恐竜。一等だよ。皆の驚いた顔。
いま、外は深くなった秋の雨が降っています。
何もない賑やかな夜です。
またね。