冬の一角獣

真城六月ブログ

その人

冗談が好きな人だった。ブラックなユーモアが得意だった。
色白で小柄で銀色の髪の毛をしていた。
プライドが高くてシャイだった。お料理とお裁縫の天才だった。
お茶が好きで犬が好きで猫とお酒は苦手だった。
電話はいつも尻切れトンボ、先にきった。短気なところがあった。
お洒落だった。いつもきちんとお化粧していた。
倒れてから一年間、その人はだんだん私の知るその人ではなくなっていくようだった。
私はその人のそばにいて、その人の嫌がる薬を飲ませ、その人の嫌がる食事を勧めなければならなかった。
その人の身体の辛さや淋しい恐ろしい気持ちを分かっていながら私は時々、一日で良いから自然に目覚めるまで眠りたい。休みたい。と願ったりした。
その人が喜ぶかと古い古い川畑文子の歌を覚えて歌って聞かせた時の、驚いた顔。一緒に歌った時、周りは不気味がり、二人でいたずらをしているようで、楽しかったこと。
一番近くで見送ったのに、その人に会えないことを未だにどこか信じきることがない。
最近は自分のその人に似ているところを見つけることが好きになった。
今年も八月はまだ暑い。