冬の一角獣

真城六月ブログ

星は星

 

目蓋を閉じると、閉じた奥の暗く深い闇へ、彗星がいくつも飛び込んで行く。次から次へ、途切れることなく星が吸い込まれて行く。暗い深い闇の奥は見えない。何故そんなに星が還ってゆくのかも分からない。果てまで行くだろうか。果ては何処だろう。どんなところだろう。果てなどあるのだろうか。銀色と灰色の混じった静かな塵が積もるところ。なにもない。

 

 

それが眠り。

 

 

懐かしくはないし、親しくもない。近過ぎてわざわざそんな思いを抱けない。それが何かも何処から来たかも分からない。それが星といえるのかさえ。分からないものを分からないまま棲まわせている。飼い慣らすことも、促すことも、宥めることもしないで、たくさんの星が流れてゆくのをただ見ていると、いつも決まって少しだけ清潔な風が吹くようで。安心と諦めと苦さと可笑しさ。何よりも涼しさ。

 

 

 

 

思い出すのは八歳の熱を出した夜の星。ベッドの傍には蜜柑色の薄灯り。少しだけ開いたままの扉から廊下の遠い光。ああ、このまま終わりたい。このまま終わりたい。そう思いながら、初めて目蓋の裏の星を見た。星はいくつもただ闇に飛び込み続け、それを見るうち、現実がどうであろうとも、星がこれほど自由なら良いと慰められた。星は無慈悲にものすごいスピードで闇に吸い込まれていった。面白がっていたら、なにもなくなり、また別のカラフルな夢を見た。

 

 

 

目覚めるたびに以前より不思議になるすべて。目覚めるたびにそれが、それ。あれはあれでしかない世界。うさぎはうさぎ。お味噌汁はお味噌汁。眉毛は眉毛。星は星。塵でも星。塵が星。塵だから星。

 

 

 

靴紐を結ぶのが下手だったわたしと、犬が怖いミホちゃん。段ボールで怪獣をつくったトモくん。投げた石がおばさんにあたって、それを妹のせいにしたリョウくん。おじさんに叩かれたおばさん。おばさんが反撃に使った傘。盗まれて、捨てられた自転車の何かを盗むおじいさん。変な口紅を塗っているおばあさん。めちゃくちゃ大きな鳥の入っている小さな籠。

 

 


雨がやんだ後、山の樹や草に覆われるように立っていたとき、手の中で動いていた虫の感触をまだ何と言えば良いか分からない。分からないまま、ちゃっかり、海水からのみつくられた塩を購入したりしている。星は星。現在は現在。

 

 

時々、あの八歳の時の星が現在に流れ込んで来ているのかもしれないと思う。もしも、それが間違いでなければ、現在見る星はいつかの先へ流れ込んでいるのかもしれない。そうして、そんな風にして、あんなに忙しそうに、思いや行いのすべては星になって注がれてゆく。だからいつも明日は一番古く一番新しくなる。よく出来ているなと思ってしまう。