冬の一角獣

真城六月ブログ

椅子

 

 

ホテルで、ロビーの壁際を沿うように不自然な置かれ方をしている椅子を見た。美しい椅子だった。

 

 

そうする事が決まっていたように近付き、わたしはそれに腰を掛けた。味わうために、深く身を沈めた。背凭れは高く、座っていると自分が小さくなる。しっかりとして、感触の良い肘掛けに右肘を立て、頭を凭れた。傾けた身体が心地良く落ち着いた。

 

 

そうしていると、目前を行き過ぎる人々が、控えめにぎょっとして、こちらを見た。

 

 

何も気にならない。わたしは安心していた。椅子はよろこんでいた。椅子のよろこびをはっきりと感じた。

 

 

 

わたしを拾いに来た人が、狼狽えた様子で、「それは座る椅子じゃないんじゃない?」と、教えてくれた。「そうなの?」と、わたしは返した。「飾ってあるものなんじゃない?」と、わたしに立ってほしい優しい人が言った。「そうだね」と、応えて、わたしは立った。

 

 


飾られている椅子は、腰掛けてもらいたい。それを知った。もう少し重みのある存在を座らせてみたい。例えば、猫があの上で眠る。

 

 

 

椅子はどうやって泣くのだろうか。