冬の一角獣

真城六月ブログ

兎だらけの三月

 

 

 

シェリーの詩集を何気なく開く。その頁にある詩行に捕まった。

 

 

 


「骸骨」となった「霜」を夏の墓へ追いやる
「春」の化身のような美しい「幻」がーー

 

 

 

 

 

この詩は『エピサイキディオン』という詩で、冒頭には、「いま修道院に幽閉される不幸な貴女エミリア・Vーーにささげる詩」とある。詩集の解説によれば、彼女エミリア・ヴィヴィアーニは名門の家庭に生れながら、その美貌を、若き継母に妬まれて修道院に幽閉されていたイタリアの美少女とある。シェリーが、みずからの理想美を彼女によせてうたったのが、この『エピサイキディオン』であるらしい。エピサイキディオンとは、シェリーのギリシア語をもとにした造語で、「魂のうちなる魂」の意だそうだ。

 

 

 


ある一冊の本を何とは無しに開き、目に飛び込んだ一行に、現在自分が求めているものを見出すという迷信を信じるわけではないけれど。やけに意味ありげに感じられることも多いのは、無理にも何かに縋りたい内なる弱さや甘えから来るのかもしれない。

 

 

 

占い、おまじない、暗示。それらを疑いつつ、愉しむ素振りをしながら、魔法に憧れる子供の心は大人の内側でわりと本気で信じていたりして。自分の内でまだ疼く子供と遊んであげていると言いながら、いつまでも遊んでもらっているのかもしれず。他愛ないことの中に抜き差しならないものがあり、忘れ去ったものの中に生涯離れないものがある。

 

 

 

 

 

三月は少しくらいイカレているのに良い季節です。春の兎はどれが三月兎なのか分かりません。わたしなのかもしれないし、あなたかもしれない。全くやってられないよ。

 

 


またね。

 

 

 

 


⚠︎引用、抜粋は、新潮文庫上田和夫訳『シェリー詩集』より。