冬の一角獣

真城六月ブログ

春は読みもの

 

 

あたたかくなってきました。


春は足が歩き、心が歩き、肩がコートを脱皮したがって、頬があかるくなって、眠たいですね。雨だけ、冷たい銀色です。身体の外側で自分が踊っていて、なかなか戻ってこなくなるような春です。

 

 

同じ本を読んでいます。いつもそうです。堀口大學訳の『シュペルヴィエル詩集』や、『ヴァージニア・ウルフ著作集 』などです。それを閉じると、カポーティの『夜の樹』や、リルケや、ポール・オースターの『孤独の発明』などの好きなところを開きます。眠る前には、ここのところずっとグレン・グールドの伝記を読んでいます。『グレン・グールド伝 天才の悲劇とエクスタシー』というのと、『グレン・グールドの生涯』というのの二冊です。伝記というのは、読んでから書かれている人物を認めたり、好きになる人もあるのでしょうか。わたしは、好きな人の伝記だから読むことが多いです。『グレン・グールドの生涯』の方の帯には、こんなグールド自身の言葉があります。「伝記において本当に大切なのは、その人物が何を思い、考えたかであって、その人物が何を成し遂げたかではない。……」そう!そうです!本当に。読みながら、グールドのあまりの言動に声を出して笑うこともしばしばです。

 


胸が痛い人ばかりです。そういう人がわたしをたすけてくれます。

 

 


肌寒く、生暖かいと夢をみやすくなるようです。それは冬の寒いときにみる夢とは別の夢で、取れてしまった誰かのボタンを道で見つけて拾うような、少しもどかしい夢です。

 

 

 

シュペルヴィエルの詩集から少し引用しておしまいです。またね。

 

 

 

 


『森の奥』


昼も小暗い森の奥の
大木を伐り倒す。
横たわる幹の傍
垂直な空虚が
円柱の形に残り
わなないて立つ。


聳え立つこの思い出の高いあたり


探せ、小鳥らよ、探せ、
そのわななきの止まぬ間に
かつて君らの巣であった場所を。

 

 

 

 

シュペルヴィエル詩集』より。