雪に降られて赤い花
日が暮れはじめた頃、カフェで友人に手紙を書いていた。
ミリアムもトトもいない街で本を買いに行きました。その本は売られていませんでした。
「薬屋さんで薬を買って帰るからね」
そういうことの度にシュペルヴィエルの青年や賢治の少年は甦る。きれいな若者がお母さんのための牛乳を買いに行く。そのとき牛乳は牛乳以上。牛乳を越えている牛乳。溢れた一滴を舐めるとカラスも最初の白に戻されてしまう。元どおりになってしまう。
夜の星。痺れる手の指。疲れた足。氷の目蓋。そういうものと自分は異なるけれど。夜の星。
ミリアムの好きなもの。彼女は試す。彼女は命じる。さくらんぼ。アーモンドケーキ。ジャムサンドウィッチとミルクだけじゃなくて、もっと彼女を遇する。彼女を認め、受け入れなければ。
友人への手紙はいつも書きたかったこと以外の羅列で埋められる。それなのに君は何故わたしを分かるのか。君はどう?君もそう?こんな風でなく語り合うってどう?あり得ないしあわせをありがとう。
トトはいません。どこにもいません。どこを探してもいません。なんせドロシーもトトもわたしの内側にいます。わたしがトトだったこともあります。だいぶ昔の話ですが。
この冬に履こうと思っていたブーツをまだ一度も履いていません。猫は寒い日に特に元気です。いつか海を見に行きませんか。見なくても本当は良いです。
アイスティーの赤の中にお互いをよく知らなかった頃の動転を探して、わたしたちはコンプレックスを自ら強調しながら隠れあう。たのしいことが多過ぎて無理にかなしいことを引っ張りだしてごめんね。
転ばないように歩くつもりだけれど、さあどうなりましょう。あなたみたいな花が咲いている樹に雪が積もっていました。