冬の一角獣

真城六月ブログ

オペラとサカナ 【創作】

 

パーティーの後、音信の途絶えたサカナについてオペラが語ったことと思ったこと。

 

 

 

 

 

彼女は萎縮していたのではなく、当惑していたの。わたしにはそれが伝わってきたみたい。

 

 

沈黙に理由を求めるなんて訳が分からないけれど、的はずれな理由を勝手に拵えて決めつけちゃいけないでしょう。

 

音も立てず割れるグラスがあって、それをわたしもあなたも知らないだけかもしれないじゃない。

 

涙一粒こぼれない慟哭だってあるでしょう。

 

 

あってはならないものなんて、あって欲しくないものなんでしょう。

 

 

分かり辛きゃ、相手ではなく、自分の鈍さを感じるべきかもしれない。間違えているのは自分かもしれないと思うなら、もう少し躊躇いがあって良いはずでしょう。

 

 

彼女が当惑しているなら、わたしはいたたまれない。恥ずかしいと感じられる今のうちはまだ。もう恥ずかしくなんてないわたしになったら、彼女にとってわたしはいなくなるはずだもの。


食いしばって、耐えようと思う。自分の愚かさを、自分の醜さに耐えるの。

 

 

 

 

 

オペラの言葉を聞きながら、知人は明日の休みを過ごす服について考えていた。知人はオペラが話し終えると神妙に言った。


「あなたは友達思いね」

 

 

 

 


ひとりひとりがひとりきりなのだとオペラは思った。自由は常に広く美しく、豊かに潤っていて、それでいて果てしなく厳しいのだと。

 

 

 

拙いものは溺れてしまう。何度も撃ち落とされる。そうして分かっていく。分かっても慣れるとは限らないけれど。慣れないまま波を超えることは出来る。慣れないまま弾を躱すことも出来る。溺れかけたサカナの眉間の皺をいつもどこかにぶつけた痕のある身体をオペラは笑えないのだった。

 


拙いとされたものは。拙いことが拙くないことより良いということは。拙いものは拙いとされたときに出現する。

 

 

オペラは子供の頃、学芸会で演じた魔法使いの台詞を一晩で必死に憶え、翌日に皆から白い目で見られたことを思い出した。前日に、明日までにそれぞれ自分の台詞を全部憶えて来なさい。と、命じた教師もオペラが台詞をすらすらと口にするのを聞くと苦々しく笑った。

 

 


オペラは思う。

 

 

 

もう一度あの時に戻るとして、どうなるか知っていて、わたしは、やはりまた台詞を全部憶えて学校へ行くだろう。