冬の一角獣

真城六月ブログ

もうひとりいます 【創作】

 

 

最初は最初はいつだったろう。

 


最初だと思った最初は知らない人から知らない名前で呼びかけられて驚いたことから始まった。

 


振り向いてぼんやりするわたしに向かって、その人は話し続けたけれど、なんのことだかわからなかった。

 

人違いですよ。

 

その人はそれでもまじまじとわたしを見つめていた。

 

やがて納得し、謝り、それでも奇妙なものを見た目で振り返り振り返りしながら去った。

 

 

初めて彼女を見た日の驚き。

 

 

わたしと同じ姿をした人が前から歩いてきた。最初にわたしが気づき、通り過ぎる直前に彼女がわたしを見た。

 

 

彼女は表情を変えず、興味も無さそうに通り過ぎ、少し先で立ち止まった。緩慢な動作だった。

 

振り返り、こちらを見る彼女を見送るかたちでわたしも振り返っていた。


一言も無かった。短い時間だった。

 

やはり彼女は表情を変えずに無造作に背を向けて歩いて行ってしまった。

 


わたしも彼女を見送るのをやめて反対の方へ歩いた。

 

 

間近に見て、差異に気づいた。まず髪の形が全然違った。服の着方も違った。目の色はもっと違った。歩き方が一番違った。彼女にはたくさんの特徴があった。

 

わたしには彼女について特に何の感情も無かった。だからすぐに忘れた。

 


しばらく経ち、久々に彼女を見かけた。彼女の髪の形や服装がわたしに近くなっていた。それに遠くからでも彼女がよく笑うのが見えた。雰囲気がまるで変わっていた。わたしは幾分嫌な気持ちになった。だが、それもすぐに忘れた。

 


ある日、一人で歩いていると背後から声をかけてきた友人が、歩き方までそっくりね。と、嬉しそうにわたしの肩を叩いた。

 

 

 


初夏の痛いような日射しから隠れるように大きな銀杏の樹の下の日陰で膝を抱いてクラスメイトのランニングを見ていたあの日、少し離れたところに同じように座り込んでぼんやりとグラウンドを眺めている少女が振り返ってこちらを見た。まったくわたしと同じ顔で。あの日も。

 

 


保健室の薄いカーテンで仕切られた向こうにあるもう一台のベッドにわたしと同じように横たわる彼女を見た。あの日も。

 


いつの間にか会えなくなった。

 

 

 

時々訳もなく急に歓びが込み上げてきて、なにかとても嬉しいみたいに駆けたくなるようなときには、あの人がメロンでも食べているのかと思ったりする。