冬の一角獣

真城六月ブログ

桜を見た

四月。また桜を見た。



桜を見ると思うことの一つはこんなこと。



突然間違いのように旅立った人の家から見たもの。


もういない人の家から遥か見上げた山の上に咲いていた桜の遠さ。

この世にあったときにはその人が毎年見上げていたであろう桜の近さ。




わたしはその家から外に出て山の上の桜を見るうち、どういう訳か堪らなくなって桜を睨みつけていた。


気づいた時には山を登っていた。礼服にハイヒールのままだったので難儀した。


登って登ってその人の笑顔を思った。登って登って久々に会うと互いにぎくしゃくしたことなどを思った。


辿り着いてみると桜は満開だった。下から見るより紅く、荘厳で、燃えるようでいて涼しかった。



しばらく桜の下にいた。その時には、なにものも睨むことなど出来なくなっていた。





空虚になってから疲れた身体を乗り出して主の無い小さな家を見下ろした。



静かな光景だった。



わたしは見ていた。

小さな家の小さな小さな遠い玄関の扉を目を凝らして見た。


その人が家から出てくるのをしばらく待っていた。



風があまりに強かったので泣くより笑おうと思った。



桜や風や桜や風や桜や桜。四月の。


四月に思うことの一つ。