冬の一角獣

真城六月ブログ

ひかり 【創作】

季節は春でした。

あなたをお見舞いした日にあなたのお母さんと病院の廊下で会い、その後一緒に出かけました。


お母さんは軽快に車を運転して病院の周りを少しだけドライブしてくれました。わたしに山々や町並みを見せるためだったのだろうと思います。お母さんはいつもの通り朗らかによく笑い、わたしも一緒に笑いました。

暖かい日で窓の外は柔らかな光に包まれていました。

車の中では笑ってばかりいたお母さんでしたが、喫茶店に入ると静かに落ち着いていました。わたしたちは珈琲を飲み、少しずつ色々な話をしました。お母さんの話は矛盾だらけでした。娘であるあなたを許せない。病院はなにかおかしい。娘はかわいそう。憎い。許せない。納得いかない。どうでもいい。諦められない。何度もあなたのことを何度も繰り返しあなたのことを話していました。


喫茶店を出たわたしたちは大きな公園へ行きました。



わたしはブランコに腰かけ、お母さんは遠くの鉄棒を見ながら「わたしは昔、なんでも出来る女の子だったのよ」と呟きました。「逆上がりもすぐに出来たし。あの子は何をやらせても不器用だったからわたしに似なかったみたいね」

午後の光が公園の隅々まで白く明るく照らしていました。すべてはなすがままにそこにありました。

わたしはブランコを少し揺らしてみました。身体が重くなった分、それは愉快さを鈍くしていました。大人になることの忌まわしさを振り切るように強く地面を蹴り、わたしはブランコを揺らしました。

お母さんはしばらくの間じっとわたしを見ていました。わたしは病院で一人、横たわるあなたの掛け布団が波打つ様子を思い出していました。

ブランコをとめて、わたしはお母さんを見ました。「でもお母さんと彼女は似ています」と言ったわたしを見つめながらお母さんは「わたしの方が綺麗だったわよ」ときっぱり否定しました。強がるときにぐっとつりあがる目が本当にあなたに似ていると思いました。


その後日も暮れて、わたしたちはまたドライブをしていました。お母さんは運転しながら「淋しい時は会ってくれる?」と言うので、わたしは頷きました。「娘と関係なくわたしと仲良くしてくれる?」わたしは頷きました。肩や胸は訳のわからない痛みに軋みました。



やがて車は夜の闇の中、淡く光る看板を掲げた産婦人科医院のそば近くに来ました。お母さんは車を停めてたくさんある医院の窓を見上げました。「あの子、産んだのここなの」お母さんは目に光をたくさん受けながらじっと医院を見ていました。



お母さんに送ってもらい、わたしは家に帰りました。




春の日のほんとに白い午後でした。