巡る遺失物
置き忘れたノートに書かれる言葉の数々は
置き忘れられたペンを使って書いた名前は
世界のことを語るにも
思い馳せる範囲のみ
それでも知ったことをしか
だれかに教わり知った世界の
空を見て街を歩いて
動かないものや生きものに気づき
それらがなになのか
一人では分からなかったことを
だれかが教えてくれた
質問もなく説教もなく約束もなく
だれかは教えてくれた
だれかが教えてくれたのでひっくり返ってゆっくり回り、あれは驚異、これも驚異。懐かしい世界で
神秘は触れられる
思いにも影があり、陽だまりは撫でると微笑う
泣きすぎると空を飛べる
街路は泳げる
アクシデントはアクシデントを抱きしめる
いつか吹雪の中で小さな枝になり
桑の実を初めて口にしたのは二百年前
だれかに教わったことで世界は
膨らんだ膨らんだ
あの子の手放してしまいそうな青い風船
振り向いたあの子の髪にいつかのわたしのリボン