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冬の一角獣

真城六月ブログ

車窓から雷を見た日

理由の分からないことで笑われてしまったことは何度もあって、ほとんど憶えていない。そのどれも大したことでは無かった。


ある人が亡くなって、火葬場に向かう車の中で中学生だったわたしはポケットから小さなメダイを取り出して握り締めていた。

窓から外を見ていると、さっきまで晴れていた空がみるみるうちに暗くなり、黒い雲が速く流れていった。雷鳴が轟き、空は何度も光った。灰色、白、瞬き。灰色、白、もう一度瞬き。やがて大粒の雨が落ちてきて窓を叩いた。

わたしは何かに挑むように窓の外を眺め続けていた。屈しないように。おそろしさやかなしみに屈することのないように身体を固くしていた。

同乗していた婦人がわたしの肩に手を置いて窓から目を離させた。「大丈夫。なんて真っ青なの」婦人は案じてくれていて、わたしは安心することができた。「大丈夫です」と応えたわたしの握り締めていた手に婦人の視線は注がれていた。「なにを持っているの」彼女は開かれたわたしの手の中を覗き込んだ。開いた手のひらの中には汗にまみれたメダイがあった。彼女はまじまじとそれを見てなにかを確認するとにやにやとしながらわたしを見た。わたしは何故この人がにやにやとしているのか分からなかった。ただ居心地が悪かった。すぐにもう一度手を握りしめてわたしは今度は前にも増して強く自分を隠すような気持ちになった。婦人はじっとわたしを見つめていた。それからたった一言。「信じてるの?」と言った。そんなものを?とでも言いたげだった。

わたしは窓の外を眺めるのに戻った。

メダイはその頃わたし自身もうずっと身につけることは無くなっていたものだった。亡くなった人の愛していた人がメダイに刻まれた方を信仰していたと聞いて持って行ったものだった。


あの日は屈することのないように車窓から雷を見ていた。