冬の一角獣

真城六月ブログ

雨の三時の時計の話 【創作】

僕の住む街には大きな公園があります。

公園には巨大なからくり時計があります。

人々は街に初めて来たときや、ほんとうに幼い頃に皆この時計を愛します。だけど誰もがずっと愛するわけではありません。段々にほとんどの人が見慣れて飽きてしまいます。

時計は変わった仕掛けで最初は人々を驚かせます。一人ぼっちの気難し屋や喧嘩している恋人たちも夢中になって微笑みます。この時計を愛すると街や街の人々や家やそういうものをみんな愛する気持ちになります。

仕掛けは三種類あって、普段はメリーゴーランド。一時間おきにちっちゃなお馬が七頭でくるくる回ります。かかる曲はきらきら星です。
もう一種類は日曜日だけ。やっぱり一時間おきに色々な動物が出てきてフォークダンスを踊ります。猫や兎やイルカやなんかが皆立って踊ります。曲はオクラホマミキサーで天国みたいな楽しさです。

そして最後の仕掛けが一番変わっていて、この時計の特徴になっているものです。
僕がとりわけ好きなのもこの雨の日の仕掛けで出てくる女の子の人形です。レインコートを着て長靴を履き、傘をさした小さな女の子が首を傾げて左手を傘の外に出し、雨に触る仕草をしています。曲はかかりません。
他の仕掛けに比べてこの仕掛けはとても地味です。だって彼女一人、身動きもせずに雨に触っているだけなんです。それきり何もない。出てくる時間も午後三時のみで見ようと思えば待ち構えないといけません。
そんな地味なこの仕掛けですが、これこそが人々に最も強い印象を与えていたというのですから不思議です。僕のように好んで大事に思う人は少数で、陰気で嫌だと言う人が多かったとか。いずれにせよ人々は時計の仕掛けにはとっくに飽きてしまっていますからもう彼女をとやかく言う声もありません。

僕は小さい頃からこの仕掛けの女の子を好きでした。理由は分からないけれど雨の三時は特別でした。もちろん今も変わらずに女の子を愛し、時計を愛し、公園を人々を愛しています。雨に触る女の子のおかげで僕は毎日を暮らしています。




僕が手紙を隠したのは女の子の左足の長靴の中です。誰かいつか見つけてね。