冬の一角獣

真城六月ブログ

魔法のない魔女

梅雨らしく雨が降りました。

住宅街を傘を差して歩くと紫陽花は涼しい色で燃えています。草や葉の緑が深くなり、地面には水たまりがいくつも出来て飛び込む雨粒を受けています。濡れた小鳥が低く飛び、グラスを引っかくような声で鳴きます。

とっぷりと六月です。

家々の明かりが灯る頃、お夕飯の香りが漂い、雨に湿った土の香りと混じって人を早足にさせます。あるいは何かに反発するように足取りを重くさせるかもしれません。

私は家々の窓をぼんやり眺めながら、あの窓の一つ一つの内側にはそれぞれ魔女がいるのだろうと思ったりします。お母さんやお姉さんや妹や奥さんやお婆さんのいないお家にもやっぱり魔女はいるだろうと思うのです。
魔女は魔法のない魔女で生活に役立つものではありません。それではなんのためにいるのかというと、彼女達は魔法のある魔女が入ってこないようにいるのです。魔法のある魔女が入ってきたら何がどうなるか魔法のない魔女達しか知りません。魔法のある魔女は魔法のない魔女に決して太刀打ちできませんから魔法のない魔女のいるお家には入ってきません。魔法のない魔女はどこのお家にもいて魔法のないことでお家を護っています。

そんなことを考えながら道をてくてく歩き、私はお家に帰ります。

私は私の魔法のない魔女を見たことはありませんが、時々良い香りをさせて誰かがそばを通って行くように感じる時など、ありがとう。と言ったりしています。


この涼暮月は魔法のない魔女のことを考えたりしています。