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冬の一角獣

真城六月ブログ

アリスと一角獣

とても暑い五月でした。

お元気ですか。

もうすぐ梅雨入りして雨の降る日が多いでしょう。雨は降っていない時に思うのも好きです。お天気雨、晴れていながら降る雨も見たいです。陽射しの中の雨はあかるいです。

今回は『鏡の国のアリス』から、ユニコーンとお話しするアリスの場面をここに引いておきたいと思います。ご存知の方も多いかと思いますが今更にもう一度お付き合い下さい。楽しい場面ですよね。



このとき、ユニコーンが、かた手をポケットにつっこんだまま、ぶらりとやってきました。そして、通りがてらにちらりと王さまを見て、いいました。
「こんかいはおれの勝ちだぜ。」
「すこうしーーすこうしだけな」と、王さまはいくらか心配そうに答えました。「角でライオンをつきさしたりしなかったろうな。」
「けがなんか、させやしねえよ。」
 ユニコーンはうわっ調子に答えて、さらになにかいいかけましたが、そのとき、ふとアリスに目がとまったようです。すぐさまふりむくと、そこにつっ立ったまま、不快きわまりないものを見る、といった様子で、しばらくアリスのことをながめていました。
 とうとう、ユニコーンが口をひらきました。
「こりゃあーーなあんーーだい?」
「子どもなんだぜ。」
 サンガツは気おいこんで答えると、アリスを紹介するために正面にやってきて、両手をアリスにむかってアングロ・サクソン流にさしだしました。
「おれたちも、きょう見つけたばかりなんだがね、正真正銘、これ以上のほんものはどこにもないっていうしろものだぜ。」
「おりゃあ、子どもなんてものは、お話のなかの怪物かと思ってたよ」とユニコーンがいいました。「生きてるのかい?」
「口だってきくんだぜ」と、サンガツがまじめくさっていいました。
 ユニコーンは、夢でもみているように、アリスをながめています。
「おい、子ども。しゃべってみな。」
 アリスは、くちびるがひとりでに笑いだそうとするのを、とめることができません。笑いながら、しゃべりはじめました。
「あたしもやっぱり、ユニコーンなんて、お話のなかの怪物かと思ってたわ。ほんものを見たことなんて、いちどもなかったもの。」
「じゃあ、おれたちはおたがいに、はじめておめにかかったってわけだ。おまえさんがおれの存在を信じるのなら、おれもおまえさんの存在を信じてやるとしよう。そういう契約にしようか。」
「ええ、あたしのほうはけっこうよ。」


以上『鏡の国のアリス偕成社文庫、芹生一訳より。

この後アリスとユニコーン(それから王さまやサンガツやボーシヤなどがいます)のところへとても疲れた様子のライオンがやって来ます。アリスはライオンにも「怪物ちゃん。」と呼ばれることになります。この場面は「ライオンとユニコーン」という章にあります。『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』を初めて読んだのがこの偕成社文庫ででした。挿絵はテニエルで、小学中級以上向とあります。二年生頃にこの二冊を持った時、もの凄い宝物を得たような気持ちでいたのを憶えています。物語や登場する人物や動物、台詞はもちろん好きでしたが、テニエルの描くアリスのニコニコしていない様子をとても気に入っていました。アリスは軽々しくニコニコしたりしないんだ!不機嫌そうにしたり、おすまししたりしている。なんて素敵なんだろう。そう思ったものです。可愛らしくしないところがたまらなく可愛いと思いました。その頃、私も大人が望むような可愛らしく子供っぽい態度を取ることが恥ずかしくなっていましたからアリスはスーパーヒロインに思えました。今でも色褪せ、擦り切れたその偕成社文庫のアリス二冊が私の本棚の主役です。他の数えきれないアリスの本、関連書籍を何冊手に入れようとぼろぼろの二冊への思い入れには遠く及びません。

皆さんにもきっとあるでしょうね。見るだけで切なくなるようなぼろぼろの大事な本です。嬉しいですね。

ブログの名前が一角獣なもので、アリスとユニコーンのお喋りを引っ張りだしてお見せしたくなった今回でした。先ほどまで読み返していて、ルイス=キャロルが物語のはじまる前と終わった後にアリス・リデルに向けて捧げただろう詩の何行かを改めて何度もなぞりました。以下に少し引きます。それでは、また。お元気で。怪物ちゃん。


さあ   心澄ましておきき   このものがたりを

つらい知らせがとどかぬ   つかの間

あのおそろしい声が   心しずむ少女を

ゆきたくもないベッドに追いたてぬうちはーー

わたしたちは   寝る時刻のおとずれに

いらだつ   年のいった子どもなのだ

そとは   凍てつく寒さ   あれくるう雪

吹きすさぶあらしの雄叫びーー

うちは   あかあかと燃える炉辺のかたらい

幼年のよろこびの帰ってくる場所

魔法のことばは   すぐにおまえをとりこにし

おまえは   吹きつのるあらしを忘れるだろう

鏡の国のアリス』物語のはじまる前の詩より。



よろこびは   どこにいってしまったのか

アリスよ   いま   わたしの目にうつるのは

この空のもと   おまえのまぼろしばかりだ

さあれ   わたしは語りつづけるだろう

子どもたちがよりそい   目をかがやかせ

またのものがたりにききふけるように   と

らくえんがうしなわれて   すでに久しいが

わたしは夢みつづける   過ぎさった日び

わたしは夢みつづける  死んだ夏を

ばらは   もういちど咲くだろうかーー

ボートは   きょうもただよいつづけるしかないーー

生きる   とはつまり   夢みる   ことなのだから

鏡の国のアリス』物語の終わった後の詩より。