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冬の一角獣

真城六月ブログ

チョコレートのあまいかなしみ

二月でございますね。

節分や立春も過ぎ、二月最大のイベント(かもしれない)ヴァレンタインも間近です。

海外でのそれや歴史はともかく、日本ではヴァレンタインに他者や自分自身にチョコレートを贈ることになっていますね。
もはや珍しいお菓子ではなくなっているチョコレートが、この日ばかりは特別の意味を持たせられています。

チョコレートを嫌いな人って少ない気がします。
少なくとも今まで出会ったことがありません。

愛される食品、チョコレートについて今回は思うことを書いていきたく思います。

まず本の中のチョコレートですぐに思い出すのは、稲垣足穂のチョコレットと、森茉莉のチョコレエトのことです。

足穂のチョコレットは私の知っているチョコレートとは違うもののように思えますし、茉莉さんのチョコレエトも知らない食べもののように感じます。
二人が書いているものは、実際のチョコレートよりも遥かに素晴らしい魅惑のものに思える不思議さがあります。

足穂のチョコレットを一部分以下に抜粋します。


「この中へはいってみておくれ」
それは錫紙で包んだチョコレットでした。
「この中へ?」
 ロビンは、要求の突飛さに眼をまるくしました。
「ああこの中へ」
 ポンピイがうなずくと、ロビンはしきりに何か考え出しました。それはだいぶ長いあいだでしたから、ポンピイは待っているのにいらいらして、あんな大きなことを云っても本当は何もできないのではなかろうか、と思い返しながら
「はいられないの?」
と二度目に促しました。するとロビンは何か云いかけようとしましたが、投げつけるように
「よし、入ってみよう!」
と云い切ったのでした。そのせつなにおどろいたではありませんか、ロビンのからだは見る見る縮まって行って、虫のようになったかと思うと、 パッ! とチョコレットの中へ飛びこんでしまったのです。ーーいくらかは予期していたものの、余りにも思いがけぬ有様にポンピイは眼を三角にして、手のひらの上にあるチョコレットを見つめていました。が、しばらくして気を取り直すと
「ロビン・グッドフェロウさん!」
と呼んでみました。
けれどもチョコレットの中からは、何の返事もありません。それでもう一度大きな声で
「ほうきぼしのロビン・グッドフェロウさん!」
と呼んで、すぐ耳のそばへ持って行きました。やっぱり何の答えもありません。ただチョコレットがたいそう固く、小石のようになって、振ってみるとコトコトとその内部で音がするだけでした。

以上、稲垣足穂『チョコレット』より。


ね。チョコレットはチョコレートのことではなさそうでしょう?

続いて、茉莉さんのチョコレエトを以下に。


女も、子供の時期から離れて、(私はあまり離れているとはいえないが)大人の領域に入ってくると、生命を保持するための食物以外の、嗜好品というものが、菓子や飴では物足りなくなってくる。そこで煙草を喫む女や、酒を飲む女もあるわけである。
私の場合を言うと、まずチョコレエト。チョコレエトが大人の嗜好品か、と思う人もあるかも知れないが、外国の若い女優や、歌手の楽屋が薔薇とチョコレエトでいっぱいであることが、小説なぞに出て来たり、日本でもチョコレエトを囓るのは子供か、まだ子供のお仲間のような若い女ときまっているが、私はだいたいチョコレエトは珈琲、煙草と優に並ぶ、コカイン的な嗜好品、つまり大人の食べものだと、思っている。もちろん私の言うのは、子供の口にしか合わないような甘いのや、クリイム、ウイスキイの匂いをつけた砂糖水なぞの入ったものではなくて、純粋の板チョコの、苦みの強いものである。

以上、森茉莉『貧乏サヴァラン』の『三つの嗜好品』より。


これも、私の食べてきたチョコレートとは違うもののことを書いているような感じがします。

これらの文章を思い出しながらチョコレートを食べる時、私はいつも「チョコレットとかチョコレエトを食べたいなあ!」と心の中で叫びます。

ほうきぼしが入っているチョコレットを見つけた方があれば、こっそり教えていただけないでしょうか?

大人も子供も熱愛するチョコレートですが、私は大人の女性(言い切れるほど立派に大人でも女性でもありません)なので、お化粧品とチョコレートについても少し書きます。

毎年、ヴァレンタインの少し前くらいからチョコレートの香りの商品が沢山出るので、チョコ好きの女性は楽しみにしていたりするかと思います。私もそのうちの一人です。
シャワージェル、入浴剤、ボディークリーム、リップクリーム、香水などチョコレートの香りがするアイテムは様々です。
「お前もチョコレートにしてやろうか」という感じです。
どれも少しずつ趣向を変え、工夫が凝らされていて興味が尽きません。
甘いチョコの香りであったり、少し苦くスパイシーであったり、リップなどはチョコミントの香りだったりします。
一般に甘いお菓子のようなグルマン系の香りものは秋冬に適しているので(好きな方は、気にせず通年使いましょう)ヴァレンタイン頃から春までの短い期間にたっぷり愉しまれるのでしょう。
私も少しばかり所持しています。まだまだ寒い夜にチョコレートの香りがするお化粧品は気持ちを温めてくれます。
男性は使うのに抵抗があるかもしれませんが、お休みの日の前夜なんかに試してみても楽しいかもしれません。
男女関係なく、美味しい香りで夢を見るのはどうかなと思いました。
以上、好きなお化粧品のお話でした。失礼しました。

チョコレートについて好き勝手、支離滅裂に書いていますが、どうしても書きたいことがまだあります。
もう何年も前に観たテレビ番組でカカオの実を収穫する西アフリカの少年が取材されていました。彼のことが忘れられません。
まだ幼い少年は、貧しい家のためにひたすらカカオの実を収穫していました。
インタビュアーが彼にききました。
「君の集めてるその実が何になるか知ってる?」
彼はこんな風に答えたように覚えています。
「さあ。知らない。ミルクかな?」
インタビュアーはこうも尋ねていたと思います。
「それはチョコレートというお菓子になるんだよ。チョコレートを食べたことはある?」
彼は
「無い。そんなものは知らない。それは美味しいの?」
という風な内容を答えたのだったと思います。
毎日毎日、来る日も来る日もひたすらにカカオの実を集める細い体のその少年のきれいな瞳を忘れられないでいます。その番組を観て以来、一度もチョコレートを食べたことの無い彼を思い出さずにチョコレートを食べることは出来なくなりました。いつも彼を思い出しながらチョコレートを食べています。だからいつもチョコレートは甘くてかなしい味がします。

さて、そろそろ書くことも尽きてまいりました。長々とお付き合いくださり、ありがとうございます。
ヴァレンタインが近いので、音楽もヴァレンタインらしい曲を聴きたくなります。チェット・ベイカーのマイ・ファニー・ヴァレンタインを聴くのも今頃ちょうど良いかもしれません。スタンダードナンバーなので色々な方が歌っていますが、私はチェットひとすじです。このマイ・ファニー・ヴァレンタインは「わたしの変な人」とタイトルを私は勝手に訳しています。
好きな人の変なところ、おかしな癖、ダサいところを愛するのだとするこの歌の感じにとても共感します。あまくてかなしい歌です。

今回のブログを書きながら食べたチョコレートのお菓子はミルキーウェイというものでした。美味しいのはもちろん、名前が好きです。 

ごちそうさまでした!
あまくてかなしかったです。

それでは…では…では

またね。