冬の一角獣

真城六月ブログ

虹 【創作】

昨夜、写真を撮りたくて撮れない夢を見ました。
もどかしかったです。
カメラを構えると必ず邪魔が入ります。そして、とうとう一枚も撮れずに目覚めました。疲れて遣る瀬なかったです。

朝からしょんぼりして、ワオキツネザルの尻尾に似た尾を立てて歩く猫のおでこを撫でさせてもらい、元気をだしました。

それでも夢の中で見た素晴らしい虹は目に残ったままでした。
大きくて色も鮮やかな完璧な虹でした。

何度も誰かに話しかけられ、肩をつかまれて遂にまたと見られぬような素晴らしい虹の写真は撮れずに終わりました。

早く撮らないと消えてしまう!

何度もそう思いながら撮れませんでした。
虹は振り返るたびに薄くなっていきました。
焦りと悲しみと。

夢はどうしてこんなにも現実に似ているのでしょうか。
あと何度、私は写真を撮り逃すのでしょう。
夢で撮れなかった虹を現実で探し、現実で掴めないものを夢で探しているようなそんな気分をなんとか振り払おうと少し歩いて大きな公園に出かけました。

冬の公園は人もまばらで風が樹々を揺らす音が怖いくらいに響いていました。

私はあの虹をもう見られない。

やはりこみ上げるあの虹への思いを持て余しながら自販機で買ったお茶を飲み、ベンチに腰掛けました。

世界はどうにも白けていました。まるでなにもかも起こるべきことは起きてしまった後のようにかさかさしているのでした。


青いコートの小さな女の子が私の前に立ちました。手にシャボン玉遊びの道具を持っていました。
「シャボン玉するの?」
女の子はにこりともせずに私を見ていました。
「私とシャボン玉しよう」
女の子は首を強く横に振りました。
「なんで?」
「虹の写真を撮れなかった罰よ」
女の子はこう言うと初めて笑い、走り去って行ってしまいました。

樹々を揺らす風の音がしていました。