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冬の一角獣

真城六月ブログ

9月12日のしあわせな夢

私は十四歳で、それを少しも不思議に思っていない。
当時好きだった、今は持っていない生成り色をした総レースのワンピースを着ている。一生懸命、髪を梳かして出かけた。
デパートの食料品売り場でマリアージュフレールのアッサムメレンを買い、高層マンションの十六階にある部屋へ迷わず向かった。一度も現実には行ったことのない場所だ。
部屋へ入ると二十歳前後のお洒落で優しい様子をした見知らぬ女性達が四人で迎えてくれた。
私は「お邪魔します!」と元気良く挨拶をしてお姉さん達の憩うリビングルームに加わった。
ブラウンの絨毯が敷かれている部屋の真ん中に大きな黒いテーブルが据えられていて、そこには色とりどりのケーキや可愛いマクミランのティーカップやカットされた果物が並んでいた。
それらすべてを広い窓から射し込む柔らかな光が包んでいた。
笑顔の人々が座る間に私はなんの躊躇いもなく腰をおろした。
不安も疑いも怖いものはなに一つ無かった。私は屈託無く安心しきって笑顔でいた。周りの見知らぬはずの人々に甘えきった気持ちでいた。皆がなんともいえない慈しみの念を込めた眼差しで私を見ていた。
向かいに座っている長い髪を垂らした女性と話をした。
「可愛いお洋服ね」
「うん。これね、袖のところがほんとに好きなの」
「良く似合ってる」
「ありがとう」
「そういえば、あの人がね、あなたのことを話していたわよ」
「なんて?」
「あの子は中学生界きっての…バッサトゥーン?だったかな」
「バッサトゥーンってなに?」
「さあ?」
こんなわけのわからない会話をしながらも私は幸福なのだった。しかしバッサトゥーンとはなんなのだろう。あの人とは誰のことだったろう。さっぱりわからない。
やがて皆それぞれにテーブルに並んだ美味しそうな食べものを口にしながら、和気藹々と時間を過ごした。
どこからか小さな鞠が弾んで転がってきた。私はそれを熱心に追いかけて部屋中を駆け回った。
「猫みたいね」
誰かがそう言って、温かく笑った。
鞠を掴まえた私は、それをテーブルの下に置いた。水色の波が描かれた鞠だった。
三つ編みをして、白いベレー帽を被った女性が私を招き、その人の膝の上に頭を乗せて眠った。
「疲れたのね」
そう言って、彼女は私の頭を撫でた。
誰か他の人が毛布を掛けてくれた。部屋全体が到底考えられないような慕わしさで満ちていた。目覚めて、この人達と別れ、ここを出て行くなんて出来ないことのように思えた。
どうしようもなく幸せな気持ちで私は眠った。本当は目覚めた後にもずっと狸寝入りしていた。皆のお喋りを聞いていた。
「そうだ。この子が持ってきた紅茶を淹れてみましょう」
誰かがそう言って、作業する音がした。私は我慢できずに跳び起きた。
「だめ!私が淹れるよ」
突然起きた私の素っ頓狂な声に彼女達は目を丸くしていた。
「美味しく飲んでほしいから、私がやってもいい?」
そう言うと、皆が納得したように頷いた。

私は真剣にお茶を淹れた。
あとは、深く赤味がかった紅茶の色ばかりが目に残った。
枯葉のような薫りをさせるその飲み物の色ばかり。

格好悪く目覚ましが鳴って、起きたあとには金曜日があり、お腹を空かせた私の猫が先に立って歩いた。