冬の一角獣

真城六月ブログ

遠くへ行かない

九月です。

今までも今もいつもこれからもなんの役にも立たないことに心を寄せ、どうにもならないことを夢にみながら生きています。

今までを振り返っても、十分その要素に満ちた時間の過ごし方をしてきたつもりではいますが、最近はとくに孤独の大切さを感じています。孤独といっても周りにいつも人がいないことではなく、一人で考え、一人で選ぶことです。心理的な意味ですべてから手を離してみることです。そうしなければ見えないものがあると思っています。手を繋ぎたいとばかり思いつめていては気付けないことがありそうです。手を結ぶ方法を見出すのに疲れたら、滑稽な自分を少し笑って、まあ一度手を離してみましょうよ。と言い聞かせることにしています。

一人でいるのを邪魔してくれたり支えてくれたりするのはやっぱり本というやつです。

とり憑かれていたと言えるくらい自分を傷つけ、満たし、共にあった本や音楽からどんなつもりだったか離れようとしたことが、これまでに何度もありました。もう、あれからは卒業した。だなんて、いっちょまえに前進したつもりでいたりしました。今は、そんなことを繰り返していた自分を子供だったと思います。また、ある程度はそんな自分の面倒な部分を残したままでいてもいいかなとも思っています。

一度心臓を握りつぶされるような読書を経験すると、時が経ち、上手く手を切れたと思ってもそうは簡単にいかないものなのだと今は知っています。時の経過と共によけい複雑に深くなるものだってこの世にはあるようです。私にはそう思えます。

そういう経験からは遠くへ行けやしないのだとくすぐったく思っています。

それでも何度も疑問を持ち、離れることを繰り返すことも必要だと思います。ですが、結局戻ってきてしまうものです。いつかまたそのもののところへ必ず戻るのだと思います。

そこにしかないものに心臓を掴まれているのですから戻るのはあたりまえかもしれません。

いつの間にか知らず知らずのうちに作っておいた場所があるのは我が事ながら不思議です。

迎えに来たよ。あるいは、おかえり。なんて言われなくても私は勝手に戻るのだろうと思います。

今日は誰に邪魔してもらおうかと考えます。昨日まではサリンジャーのところにいました。グラース夫人のうつくしさは読むたび凄味を増すように思いました。今はなんだか犀星のところへ行きたい気分です。『犀星王朝小品集』がとても好きなのでそこに行くと思います。

 

皆さまはどんな九月と共にあることでしょう。去った夏を惜しんでいるのでしょうか。来る秋と冬を心待ちにしているでしょうか。皆さまそれぞれの今を過ごしていらっしゃるのでしょう。

 

私も時には骨が痛むくらいに笑いながら過ごしています。

それでもやっぱり遠くには行けやしない暖かくて肌寒い初秋です。