冬の一角獣

真城六月ブログ

透明

バーガーショップの二階から電話をかけようか迷っている。 追い出されて出て来たけれど、すぐに帰れと命じられて透明になった。 街に店の中に同じように透明な人が大勢いるので驚いた。透明なのは特別なことではないのね。なにも。 身体の中にソーダが入って…

アンダンテ

平日の昼間の地方都市の商業ビル上階のゲームコーナーの光や音のそばを通ることが好きだ。人がいないゲームコーナーはびかびかに輝いて痛烈に淋しい。おどけたアナウンスが誰もいない空間に語りかける。 「ガンバッテー」 ああ、何を頑張れと言うの?コイン…

とおまあ

手のひらが自分を打ってしまって痛みがある夜の見慣れない文字を見つめる船底から聞く雨音 滑り落ちて下から上へ読んでも同じくらいに分からない異国の呪文遡れさかさま遡れないさかさま 目に食べさせる情報が身体を巡りわたしになる頃なくしてしまうものを…

合図

苦し紛れのフレンチトーストが痩せた人の食道を通るときツツジが雨を飲み過ぎて溺れかけているときアメリカンチェリーの赤さ黒さに見惚れているとき沸かしたお湯の匂いを嗅ぐとき 思い出した思い出せない思わない いつもの駅で突然独りきりだと骨まで感じる…

うたつぐみ

窓を開けると、聞こえる歌。忙しい日、塞ぐ日には能天気なその声がしばしば神経を逆撫でた。 その歌が聞こえない。 歌っている人は近所の婦人なのだった。小柄で控えめな様子の人なのだった。すれ違う際には、ほとんど聞き取れない声で挨拶してくれる。 その…

眠れるサカナ

気配を感じて目を開くと、あなたはわたしを見ていた。夜中。明け方近かったかもしれない。眠っているわたしをあなたは見ていた。 微睡んでいたからもの思う余裕も無く、目蓋は緩慢に、何にも引き留められずに閉じた。やっと意識を手放して、逃げ込んで、閉ざ…

一緒に狐になること

色鉛筆を買わなかった。昔好きだったミュージシャンが表紙を飾る雑誌を買わなかった。ドライアプリコットを買わなかった。飲み続けていたサプリメントをやめた。 右を向いて眠らなくなった。電話が鳴ってもゆっくりとして驚かなくなった。いつまでも表皮を掠…

うすくれない

あんまり遠くて迷いながら歩き過ぎてべそかきながら悪態つく相手がいたしあわせ春休みじゃなかった? 電車を乗り継ぎしあわせになるペンダントを買いに行ったあまり賢くない女の子達ふたりとも学校が嫌いでひとりはお家も嫌いでもうひとりは習い事も嫌いで微…

兎だらけの三月

シェリーの詩集を何気なく開く。その頁にある詩行に捕まった。 「骸骨」となった「霜」を夏の墓へ追いやる「春」の化身のような美しい「幻」がーー この詩は『エピサイキディオン』という詩で、冒頭には、「いま修道院に幽閉される不幸な貴女エミリア・Vーー…

春燈

白いドレスを着た人が微笑む。誰に向けてでもなく。そういう写真。静かな香り。薄い茶色のぬいぐるみ。深紅の毛布。枕からはみ出した髪の毛。今日か明日か。昨日か夢か。あなたは天使ですか。あなたは虹ですか。何で出来ていますか。塩は要りますか。雨が降…

淡いもの

晴れた日 昼間 コンビニエンスストア店内 小さな王様を乗せたベビーカーを押す王様のパパらしい人は立ち止まり、棚の商品を見ていたから、わたしはパパにバレないように王様と目を合わせる機会を得た。わたしは少し離れたところから、王様に戯けてあっかんべ…

サカナの夢日記

階段を下りる。電気は辺りを明るく照らしている。人はまばらにすれ違う。上ってくる誰かの髪。下りながら誰かの足。踊り場。また階段。独りきり下りる。どうやら地下鉄の。どんどん下りる。時々楽しくなって早足で駆け下りる。息が少し上がる。それが嬉しく…

光年レストラン

シェフはわたしが苦手だった。両親に彼女と話すのは緊張すると言っていたらしい。 そのレストランはもう無い。 家族でよく通った。そこは小さな寛げるフレンチのお店で、とてもカジュアルな雰囲気なのに料理はどれも本格的で美味しかった。そこでわたしは初…

眠り物語り

勝ってはいけないし、敗けてもいけない。勝つことを避けるのは出来そうだが、わざと敗れてはいけないのだ。 シモーヌ・ヴェイユの戦争に対する思想の周りを考え考え、玉ねぎを切る。 敗れてはならない理由は、相手の勝ちに加担してしまうからだ。相手を勝者…

コートのポケット

クリスマスツリーが飾られた空港。風邪をひいた家族。連れて来られる犬。雪を待つ額に当たったみぞれ。斜めに貼り付けられたサンタクロースと玩具屋さんのカタログが突っ込まれたポスト。サンタがパパだった歌。真っ白な生クリームに乗っかった真っ赤な苺。…

魔法

動物園のショーを観た日。客はまばらで空は曇り、あなたは健康で、あなたも健康で、もう一人も健康で、わたしも健康だった。 動物園へ行けば気が滅入ることを知りながら、繰り返し行くのだった。そこへ行けばわたしが嬉しいのではないかと望みをかける人のた…

Jam session

十一月半ば、ツイッターで連詩をしたいとツイートし、わたしがはじめたものに連なる形で自由に参加して頂きました。繋げたものをこちらで紹介したいと思います。 Jam session 雨が夜に降り、夜は寒くて樹の中に飛び込んだ。枝と葉の間に夜はいる。猫の瞳の中…

音と無音

換気扇のたてる音と食器を洗う音と薬罐を火にかけている音と 猫が食事を囓る音と誰か廊下を歩く音 遠くを走る列車の音とスマートフォンの通知音と 静かといっても賑やかな音の重なりの中で イヤホンをせずに流れた音楽でストックホルムになる部屋 あいしてい…

眠られぬ夜のオペラ

あなたがわたしを好きなのは、わたしが我慢をたくさんしているからよ。無理をして無理をして無理をしているわたしをあなたはやっと少し好きでいてくれる。軽んじながら。疎ましく感じながら。 どうしてこんなだろう。書いた詩人がいたけれど、ごく低いレベル…

秋は綿の味

いろいろな秋があり、読書の秋とも言いますが、わたしにとってこの秋は、どうやら読書がいまひとつ捗らない秋であるかもしれません。 読みたいと思って、いざ本を開いてもなかなか頭にすんなりと入って来ません。そんな時期もありますね。今まで読んできたも…

姿形

傘さして買い物帰り、横断歩道を渡るとき、銀の雨が花壇に降り注いでいるのを 歌の無い暮らしを 電話をかけられない日の 十五年前に着ていたコートに袖を 針と糸 針と糸 針 糸 糸 糸 糸 糸 糸紡ぎ 連なり 繕い 解かれ ほつれ か から から 絡まり 絡まりやす…

子猫兎

夢の中で知らないけれど懐かしい感じの定食屋さんにいて、そこのやっぱり知らない人だけれど懐かしい店主に懸命に話をしているのでした。 この間は、そうです!そこのカウンターの右から二番目の…そう!そこの席です。そこで焼き魚の…。そうです。あの、わた…

言葉

あなたに使われない語だけでつくった歌を歌っていたら、カナリアだと思い込んでいた鳥が陽射しになり、暗いところを照らし出した。カナリアはひだまりになっても歌うのだった。ひだまりはカナリアでなくなっても羽根を震わせ飛べるのだった。 すべての語に魔…

八月 読むこと思うこと

こんにちは。こんばんは。 八月です。夏です。暑いですね。台風が来たり、雷が鳴ったりします。猫の鼻はちゃんと濡れていて、八月の濡れた鼻です。 今回は最近の読書からメモを置いてみようと思います。 私のものを盗み、相手の行為に私の方がはじらって、気…

海に似て

ひとりもない談話室で元気な自販機のあかるさが眩しい 整然と配置された清潔な机と椅子がおそろしいから座れずに歩き回ることも出来ずに見るものもなく立ち 助けを求める人のように窓に寄った 七月の空だった 膨らんで呼吸の荒い雲だった 海に似て青い果てま…

笑う夏

七月になりました。 今年は六月からとてもとても暑い日が続いています。あんまり暑いと何をしたわけでもない日も暮れる頃には疲れていたりするものです。そうして、疲れているからすぐにもぐっすりと眠りたいのに、また暑い夜なものですから、いつまでも眠れ…

孵化の傷

子供の頃、女の子達の間で流行りの遊びがあった。それは遊びと呼ぶにはあまりにも趣味が悪く、罪深く、低いことがらにあってもまだ低いといったもので、許されて良いものではなかった。それは仲の良い友達を傷つけるというものだった。互いに傷つけあうこと…

うつすものうつさないもの

最近は様々な画像加工アプリなどがあり、上手に使う人が多い。 手探りで利用してみると、なるほどとても面白く、時間を忘れて色々と加工を楽しんでしまう。色味を変えると、晴れた青空は薄暗くなるし、平凡な街路を百年前の道に変えてしまうようなエフェクト…

看花

渡り廊下が好きだった。通れば、橋を渡っている気分に少し浸れる。浮橋のイメージ。吊り橋。滑走路。脆そうな、危ういような足音と浮遊感、いつかも通った既視感。なにかとすれ違いそうな予感。それでいて頑丈などこにも隙の無い安心感。みんなで通るときよ…

サカナの手紙

昨夜の夢であなたは現実と遜色ないうざったさを発揮し、私にあなたに宛てて手紙を書くよう迫りました。狂おしいことに、あなたはその手紙を送る際に使う封筒まで用意していました。それには既に、あなたに届ける為の宛名まで書いてありました。どういうつも…