冬の一角獣

真城六月ブログ

春燈

 

 

 

白いドレスを着た人が微笑む。誰に向けてでもなく。そういう写真。静かな香り。薄い茶色のぬいぐるみ。深紅の毛布。枕からはみ出した髪の毛。今日か明日か。昨日か夢か。あなたは天使ですか。あなたは虹ですか。何で出来ていますか。塩は要りますか。雨が降っているかもしれない。あのとき、泣いたのは間違いだったかもしれない。偽りや甘えや。誤魔化しや赦しや。共に笑ったことを。ありがとうやごめんねは誰のために言われたかを。口にせず生きて来たあなたに強いてしまったこと。あなたはわたしと同じところまで来てくれた。どうしてそう出来たのか。してはいけないこと。をさせて。一度でもほんとうにあなたが笑ったなら良いけれど。あなたばかり独りだと考えていて。わたしもそうなのに。あなたの苦しかった日にわたしはいなくてごめんなさい。これまでずっといなかったのに。やっと出現したら助けを求める有様の。河を渡る橋になりたいけれど。あなたには不要。あなたは羽ばたけるから。遠くまで。高く。好きなところへ。優しさは深まるごとに陰影。に富み。信じないで下さい。信じていないので。何を明かしても。明かされても。五歳のあなたより。二十歳のあなたが淋しそう。言葉。無力な。強力な。それしかないわたしたち。さかさまの糸繰り人形。主役も脇役も無い舞台で。長く続く幕間。歌うロボットと喋る宇宙人。灯がともるように現れたり。消えたりする花。純情と汚辱の。砂糖と砂。隠した菫を探す旅。余った鍵と読めない手紙。割れない薄硝子。こんな風に話したことは無いの。犬や猫や鳥以外と。大きなしゃぼん玉の内に入り込んでいるみたい。気遣わしげな声で。石鹸みたいに見詰めて。開いた本の頁に。必ずあなたがいた。踊る人の振り上げた足にあなたの翼から落ちた羽が付いていた。書いている自分が。分からない言葉を書いていたノートの余白にも。雪は降って。いたのに。椿を見つけるたびに。報せて。日々の波音。いつか。いずれ。開けてほしい引き出し。何も入っていないから。星を見せたい。何をしてあげたいか分からない。何もしてほしくない。すれ違えなかった。お互いによく聴こえない電話。指でつくる形を暗い部屋で見せ合うような。なぞなぞ。当てて。外して。ある日は晴れ渡り。わたしが水仙を見ているとき。あなたは誰かに笑いかけている。光だから。どんな背中にも陽射しは容赦無いから。斜めに歩いて行く小さな背中の昔のあなたを捕まえて一緒に電車。に乗って。チョコレートを囓る。ほんの少しだけあなたに多くあげる。窓から菜の花が見えて。分かりやすく春。たぶん余所見しているうちに。切符を失くしても。可笑しくて仕方ないくらい。春だよ。