冬の一角獣

真城六月ブログ

オペラがピエロ 【コント】

 

 

あんたは隠し事が出来ない。あんたとは秘密を共有していられない。リスクしかない。だから重要なことはあんたに打ち明けられないってこと。
こっちが気をつけるしかないね。何度冷や汗かいたか。
憶えてる?こっちは忘れられないけどね。あんたとわたしと旅行に行ったとき、あのトラブルメーカーには内緒にしようって散々言っていたのに、帰って来てからしばらくして、わたしが大きな鞄をあんたに貸してくれって、あの子のいるところで言ったらさ、あんたは「どれくらいの?この前使ったやつで良い?」って。
わたしは、ちょっと焦って「大きめなら良いよ」って返したじゃない。そしたら、あんた大きな声で「じゃあ、やっぱりこの前旅行で使ったやつが良いよね!あれで良い?」って。
わたし、呆れたよ。内心ムカついたけど、あんたに目配せしたよね?それなのにあんたは「なんでそんな顔してるの?」って。
あの子は、ぽかんとしてたよね。それなのにあんたは、追い打ちかけるように「ねえ、あれで良いでしょう?丁度良い大きさだよね。あの二人で海に行ったときの」なんて大きな声で全部丁寧に説明してくれちゃって。
あのね、わたしが言いたいのは、大人がああして人を傷つけちゃいけないのよ。


ごめん。


あの子が可哀想じゃん。


うん。ごめん。


マジで間抜けだわ。わざとじゃなければ良いってことじゃないよ。


わたし、話している相手以外の人を忘れちゃうの。


ぼけぼけしてさ、あんたは優しくないよ。ほんと。


でも、あの子を誘いたくないって言ったのはサカナじゃん。


それとこれとは別。好きじゃないやつでも傷つけちゃ駄目。


そんなつもりじゃなかったんだけどな。


でも、あの子は傷ついた。あんたの間抜けのせいで。


どうしよう。


まあ、もうどうにもならないよね。開き直ったもん。わたしは。似たようなことは、これまで数えきれないくらいあったね。あんたは治らない。


軽蔑しないで。


してない。むしろ褒めています。


馬鹿なことを褒めるの?


馬鹿じゃない。たぶんその方が良いよ。


その方って?


隠し事が出来ないような性格のこと。さらっと上手く立ち回れる人を見たときの、こちらの気持ちはこうよ。うわあ。恐ろしい。


賢い。じゃなくて?


賢いわけないでしょ。終わってる。こいつはもう駄目なんだな。だよ。


じゃあ、サカナは終わってるのね。


そういうこと。同じだから嫌になるわけ。見たくないわけ。もう嫌な感じの人間なんて自分だけで充分なのよ。


恥ずかしいけどな。


なにが?すぐなんでもバラしちゃう…違うか。バレちゃうのが?


ピエロじゃん。


まあ迷惑だよね。修羅場くぐり抜けられないよね。組織にいたら消されるよね。


入らないもん。組織なんか嫌いだし。


いや、入れないでしょ。笑うわ。使えないにもほどがある。


良かった。


良かったね。


どうすれば治るかな?


治らないでしょ。あんた子供の頃からでしょ。


なんでこんなだろ。


その場では腹立つけど、時が経てば笑えるよ。

 

 

時が経てば笑える。時が経てば。時が。時ってどうしたら経つんだろう。ほんとうにそうだろうか。オペラがピエロだったことをおばあさんになってからサカナは笑ってくれるだろうか。

 

オペラはおばあさんになったサカナを思い浮かべることがどうしても出来なかった。無理に想像すると、おばあさんのサカナは、意地悪そうに口元を歪めながら鍋でイモリを煮ているのだった。

 

わたしはいつかサカナの煮たイモリを食べさせられるかもしれない。そしたら、わたしはそれをイモリと知っていて分からないふりして食べなければならない。とオペラは思った。