冬の一角獣

真城六月ブログ

脆い鬼のための小品

 

 

 

降る雨が幽かな声で「うれしい」と言いながら花に落ちました。

 

 

「うれしい」

 

 

「うれしい」

 

 

 

 

雨の雫を受けた花は微笑んだり、驚いて震えたり、それぞれでした。

 

 

 

 

そうしてすべての花びらが雨を真似た囁き声で「つめたい。あったかい」と言いながら散っていきました。

 

 

 

「つめたい。あったかい」

 

 

「つめたい。あったかい」

 

 

 

 

 

 

濡れた街路はうっすら赤く 満たされて かなしい目蓋です。

 

 

 

 

 

風の中を舞う緑の匂いに混じって 鉄棒を握った子がひろげた 手のひらの香りがすれば、すべて時のうつくしさに傷つけられてうれしい、春の背中です。